第4話:打開策


が――。


「ふふふ♪……効くかよ」


《盾(アスピダ)》、とリュゼが短く呟いて風の刃を真っ向から片手で受け止める。その時もう一方の手の指が空中に走らされるのをジズとロコは見逃さない。


「ほらほらぁ、盾の制御がなおざりだよぉ!」


放たれたのは無数の黒い火の玉。ほぼ同時にロコがアケ、と己の使役する人形の名前を叫ぶと、はたして小さな影が彼の目の前に降り立ち双眸を苛烈に光らせた。


「捕捉、撃墜します」


突然彼の手に細かな水泡が生まれた。それを手のひらを軽く返して飛ばすと、たちまち火の玉と相殺されて消えていく。


「邪魔するなよぉ」


それでも余裕の笑みを崩さないリュゼは、木の下にたまっていた無数の魔物たちをけしかけてきた。すかさずジズが《蜘蛛ノ糸》を編み上げて巣を作り出し、行く手を阻む。そこでさらに別働の魔物たちを片付けたヨイが割り込み、刃に変えた両手で新たに現れた魔物たちに切りかかっていく。リュゼが今度は先程よりも大きな火球を放つと、体勢を立て直したイリアが再び魔法で風の守りを発動した。


「もうっ!抵抗するなよ。今回お前を殺せば封印の約半数が破れるんだからさぁっ!大人しく死ねってば!」


少し強めの語気で癇癪を起こすように放たれた口にしたリュゼはさらに魔法陣を描いて魔物を喚び出していく。


「雑魚のくせに、きりがないよー、主殿」


「このままでは消耗する一方です、いかがしますか」


「堪えろ、今考えている」


ヨイとアケが口々に言う。確かに彼らの言う通りだ、ロコは舌打ちをしながらこの状況を打破すべく思考を巡らせた。


「……俺にいい考えがある」


その時、名乗りをあげたのは先程まで敵対していたキリルだった。皆が言葉を失う中、彼は彼らにだけ聞こえるように声を潜めて続ける。


「幸い、そろそろ夜明けだ。いくらあいつでも陽の光に当たれば弱体化する。その隙をついて、《メルディ》にあいつの力を食わせて無力化させるんだ」


要するに《メルディ》の「《陰》を吐き出して《陽》を取り込む習性」を利用すると言うのだ。確かにリュゼは魔族のため、ジズやイリアとは比べ物にならないほどの《陰》の力を身の内に秘めている。それを《メルディ》に捧げてしまえば、とてつもない《陽》の気を吸収して《メルディ》一気に成長するはずである。


「無力化すれば、実体を持たないあいつは消えてしまうだろう。万が一消えなければ、あいつを扉の向こうに押し込んで閉めてしまえば全ては終わる」


「待って、その扉は……」


「どうやって《メルディ》に力を食わせるんだ?」


何事か言いかけたイリアを遮るようにロコが聞く。


彼とてイリアが懸念していることに気がついていないわけではない。だが、キリルがそう言い出したということは、彼はすでにその事実と向き合い、決断したからに相違ない。今のロコの仕事は巡礼を成功させることだ、冷たく言えば彼は無関係なのである。


それを知ってか、キリルはほんの少し寂しげに笑い、懐から古びた帳面を取り出してイリアに渡した。


「悲しいかな、俺たち一族は封印されるまでずっとお前たち《月慈》の連中と《メルディ》を研究していたらしい。生態、属性、肥料、薬効に至るまで全てね……。それが俺たちを閉じ込めるものになるとは思わなかったけど」


これに、今まで研究してきた《メルディ》の全てが記してある。


そう口にして、キリルはイリアを真っ直ぐな目で見据えた。


「イリア、形はどうであれ、偽りの真実の下、君たち一族を害してすまなかった。俺は今度こそ贖罪のために生きようと思う」


約束する、今度は……絶対に開かないように扉を閉める。








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