第6話:秘策


「主殿、コルド様はこのあと会議があるそうで辞せられました」


鏡面に再び映る従者の顔。ロコは深く息をついた。


「やれやれ…。ご苦労だったな、タテハ。しばしそちらでタソガレと待機していろ。何かあったら連絡する」


「かしこまりました」


そう言って鏡面からタテハの姿が消える。ジズはそれを見ながら、意味わかんないなぁ、もう、と呟いた。


「拒否権ない、ってことだよね、これ」


「そういうことだな」


「つまり、どういうことだよ」


「お前に関係あることだと思うがな」


そこまで言うとロコはアゲハの頭を撫でてやりながら魔法をとく。アゲハの姿は光の粒となって指輪に収納されていった。しかし、そんな神秘的な光景を目にしてもジズはムッとしたままだ。


「だからどういうことさ」


「……それより、受けるのか?受けないのか?」


「受けるよ!元々そのつもりだったけどさ、俺に損のない依頼ってどういう意味だよ」


「損得勘定で動かないのが医者だろう。そう決めたなら、事の真意もそのうちわかる」


ロコは煙管を取り出して火をつけた。立ち上る紫煙がゆらゆらと影を揺らす。試されているようだ、なんとも後味が悪い。ジズはロコの向かいで腕を組んで抗議の視線を送る。が、ロコはどこ吹く風だ。


「このあとどうする」


その問いに、そうだなぁ、とジズは続ける。


巡礼は凍月の朔の日から始まると長老言っていた。あとふた月余りだ、その間に何とかイリアを巡礼に堪えられる心身に鍛えなければならないが…。


「難しいよなぁ」


体質は良くて改善できる程度だ。それ以上は期待できない。ならば――。


「ねぇ、ロコ。一つ頼まれてほしいんだけど」


「いいだろう、言ってみろ」

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