第11話:生きたがり


ジズの突然の言葉にイリアは絶句する。まあ、そういう反応になるよね、とジズは頬を掻きながら呟く。


「俺は最初に紹介があった通り、地下都市≪コバルティア≫出身だ。俺たち一族は、遺伝子の構造や体内に根づいた膨大な≪陰≫の気が影響して、恐ろしく短命なのさ。……多分このままだと俺は間違いなく二、三年のうちに確実に死ぬだろうね」


「≪陰≫って…」


「まあ、平たく言えば、万物の裏の姿かな。でも善悪で判断できるような単純なものじゃない。天上があるから地上があり、地上があるから地下がある、表裏一体とか共生ってやつだね」


「それは兄さんから聞いたことある。魔法の源にもなる≪陰≫と≪陽≫はどの種族も必ず持っているもので、生態や習慣の違いから最適なバランスが違うって…」


「そうだ、君たち≪月慈の民≫も俺たち≪コバルティアの民≫も、地下生活が長いから、体内に宿っている気は≪陰≫の方が≪陽≫よりも多い。でも、どっちかが多いってことはバランスとるのがすごく難しい。ひとたび崩れてしまえば心身に異常をきたして、病の元ともなる。…俺たちの一族は特にこの≪陰≫の気のことを≪種≫って呼んだ」


「≪種≫…」


「そう、≪種≫。俺たちの体内には≪陰≫という名前の≪種≫がある。それは、地下にある≪陰≫のものを口にした瞬間に発芽する。そして≪種≫は成長し、花となって俺たちを食い破るんだ。人によって成長の度合いは違うけど、俺きっともうつぼみが膨らんでいるんだろうなぁ…」


ジズは最後は少しおどけた口調で笑いながら言った。自嘲を含んだ頼りない笑顔で。それを敏感に感じとったのだろう、イリアは小さな声で呟いた。


「何か方法は、ないの?その、病気を治すのに…」


優しい子だ。自分も体調が悪いというのに…。ジズは困ったように笑う。


「残念ながらこれは病気じゃないからね。有効な方法はないよ、今のところはね」


「辛くない?」


これには即答ができなかった。ジズはまぶたを閉じてほんの少し、記憶の波をたゆたう。まぶたの向こうに現れる懐かしい故郷の景色、住まう人々、友人の姿、そして…親と慕った師匠の最期を…。


ジズはまぶたを開いた。


「辛いよ。生きたい、という願いが許されないからね。――でも」


「でも?」


「それでも俺は今この瞬間を生きている。――だから、希望を探して地上に来た」

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