第8話:説教
「ごめんなさい」
動けないイリアをおぶったジズにそんな声がかかる。テソロに問い質されることを密かに覚悟した彼はまあまあ、と苦笑混じりに言った。
「謝るなよ、連れ出したのは俺なんだから」
「でも、迷惑かけた」
そうかこれを迷惑ととるか、なるほど。迷惑なことなんて何もない。少なくともジズはそう感じているのだが、彼にとってはそうでないらしい。
――≪狂迷怖≫の症状も出るのは、彼の気持ちの面が要因なんだろうな。
話した印象からイリアはきっともっと明るい性格だったはずだ。それを心の底に押し込めてしまうほどのトラウマ…、何があったのだろうか
「これが迷惑なら、俺だって何度もロコに迷惑かけてるよ。だからもう謝らないで、逆にこっちが申し訳なくなる」
「ごめんなさ…」
「だーから!謝んないでよ、こういうときは『ありがとう』って言っておけばいいの!」
呆れたようにそう返事をすると、イリアは驚いたような表情をしながら、ありがとう、とたどたどしく口にした。言い慣れていないのか、恥ずかしいのか、判別しがたい。しかし、それにしてはあまりにも抑揚欠ける声色であったことは気になった。
やがてイリアの家に到着した。同時に扉が開き困惑した表情のテソロが突然駆け寄ってきた。
「イリア!大丈夫なのか!?月光浴も満足にしていないお前が月光の力を使った≪お祈り≫をする気配がしたものだから、肝が冷えた」
「だって、≪お祈り≫はそうするものでしょ」
心配そうなテソロにイリアは拗ねたような態度を見せた。
「お前は今年巡礼を控えているのだから、手を合わせるのみの≪お祈り≫にしろと、前にもあれほど…」
「でも、僕だって≪月慈の民≫だ。≪メルディ≫に力を捧げて成長させる義務がある」
「お前にはもっとやることがあるでしょう!」
テソロの声が荒くなる。それを受けてイリアがビクッと小刻みに体を震わせているのがジズの背中越しに伝わってきた。
「…ごめん、なさい」
結局イリアは謝った。テソロは額に手を当ててため息をつくと、わかればいい、とぶっきらぼうに言う。
「もう休みなさい」
「はい、兄さん」
イリアの声は震えていた。ジズはさりげなくロコに視線を送った。その意図を正確に掴んだロコはテソロの部屋に残り、ジズはあの暗いイリアの部屋へと向かっていった。
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