第5話:魔導師とは


ジズの向かった場所には青白い光を放つ蜘蛛がきれいな巣を張っていた。集合場所の目印である。その木の根本でとっくに敵を蹴散らしたとおぼしきロコはのんびりと煙管を燻らせていた。


「遅い。あとホイホイと繁みを燃やすな」


ジズの姿を見るなり、ロコは渋面をこしらえた。


「仕方ないだろ、元々戦いは専門外なんだから」


確かに消火剤がなければ燃え広がって大変なことになっていたかもしれないが、あれが集団戦が苦手なジズの最善であった。


「お前の義兄たちは身体能力がかなり高かったと記憶しているが?」


「専門分野が違うの」


彼は医者だ、元々戦闘の必要はない後方支援が彼の主である。が、自分の目的や依頼の内容によっては単独行動することもあるので、そのために戦いのノウハウを身に付けたにすぎない。その上、彼の得意とする魔法も医療系が中心なのである。



「戦えぬ、魔導師か」


この世界においては、使える魔法の属性は生まれたときにすでに決定されていると言われている。新たに開花させることはほぼ不可能、故に稀少度の高い魔法の使い手ほど重宝されるのだ。ジズのように医療魔法を使える魔導師は少ない上に、彼の医療知識には地上に存在しない最先端のもの。お抱えにと考える者が出るのも当然であろう。ジズが国際手配される所以はそこにある。


ちなみに、魔法というと火や水を生み出したり、天気を操ったりなどといったことを想像し勝ちだが、ジズはそういった魔法は一つも使えない。つまり、魔法で戦う術はほとんど持っていない、ということだ。


「そのために、俺についてきてくれてるんでしょ?」


そう、戦いが得意でない彼とは裏腹にロコは攻撃性の高い魔法を使える。さらには索敵にも活用できるなど、汎用性にも優れている。その場に応じて臨機応変にスタイルを変えられるため、彼と組んで仕事をするのはとても楽だ。


「お前の仕事は見ていて飽きないからな、暇潰しだ」


「光栄だね」


目印にしていた蜘蛛の指を伸ばし、人さし指に触れたそれが光となって弾けるのを見ながら、ジズは満足そうに微笑んだ。


「…行くか」


「うん、お昼前には日陰にいたいなぁ」


「そんな都合のいいものがあればな」


「きっとあるさ」


山道はまだまだ続いているのだから。



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