【表】魔導局エース
「どちらが勝つと思います?」
縁側に座りながらやたらと広い庭で向かい合う二人の勝敗を隣で団子を頬張る青髪の少女、雫へと問いかける銀髪の少女、縁。
「葵にオール・イン」
言葉短く自分の近くに置かれている団子が乗せられている皿を縁と自分の間に差し出す。
みたらしにつぶあん、三色といった多種多様な団子が目に映る。
「剛毅ですねぇ。では私は琴音に半分」
賭けを成立させるため、彼女の隣に置かれているおはぎを乗せた皿から差し出された皿へと半分移す。
ごまにきなこに梅とこれもまた多種多様。
「腑抜けたか縁。漢なら全賭け一本勝負」
「どこからどう見ても私達女の子ですよ?」
それもそうだと納得した漢らしい少女は、模擬戦により被害が出ないようにと小規模な魔導結界を庭一帯に張り巡らす二人へと視線を移す。
どうやら向かい合ってから結界を貼り忘れた事に気づいたのだろう。
「それに心情的には葵に勝ってほしいですからね」
「確かに……ユウは?」
賭けたはずの団子を頬張りながら少し離れたところで丸まっているヘタレ狼に話しかける。
「……くう?」
争いごとが嫌いな彼はそもそも興味がないのだろう。
どちらかと言えば二人の間にある和菓子の方が気になっているような仕草をしていた。
「まぁ仕方ないですね。そろそろ始めるみたいですよ」
「いざ決戦」
「くぅ……」
再び向かいあった青年と少女へと視線を移す二人。
団子の串を刀の如く掲げる雫へ、別に自分が戦うわけじゃないでしょうと意味を込めて鳴く狼の声はきっと届かない。
◆
「何時でもどうぞ」
やべぇ、エースとは聞いていたが予想以上だ。
隙がねぇ……。
「応っ」
短期間とはいえ居候となった少女と向かい合ったまま動けないでいた。
基本魔導士はそこまで近接に強くない。
むしろ弱いと言ってもいい。
年長者の意地としてなんとか応えることは出来たが内心舌を巻きっぱなしだ。
始まりを告げる前から四つの魔導式を起動しており、全ての詳細は解らないがその中に近接に必要な物をが含まれていたのだ。
此方が近接とバレているのは最初からわかっている。
話したこともあるし黙っていたとしても動きでバレる。
その魔導式が此方の接近をいなすための物だったら問題はない。
だが、問題は向かい合った時に彼女の動きの中に近接型の重心移動が見受けられたのだ。
「武道経験者か?」
「やはりバレましたか。多少の心得はあります」
確かに生活の中でも綺麗に歩くなとは思っていたが、多少じゃそこまで綺麗な重心移動は出来ないぞ。
これは見誤ったと内心思いながらも、近接メインの自分が何時迄も動かないままじゃ折角模擬戦を提案してくれた彼女に申し訳ない。
「行くぞ」
そもそも自分にできることなんて近づいてぶん殴るだけだ。
お互いに制圧魔導よりも更に威力を落とした虚仮威しレベルに調整された式を使用しているのだ。
拳に関しては寸止めさえすれば怪我の心配はしなくていい。
それに互いに同倍率の出力リミッターを掛けている以上、かなり実践に近い結果を得られる。
「はい」
声と共に強化式を起動。
地を踏みしめて駆け出した自分に応えた彼女が待機させていた魔導を開放する。
突撃する自分を囲む形で幾つもの魔導剣が出現する。
「しっ!」
それを無視して更に加速すると魔導剣が襲い掛かってくる。
囲まれている時点で止まるなんて選択肢はない。
よって左右後方の剣を速力で振り切り、正面の攻撃だけを注視する。
「ふ――っ!?」
腕に障壁を纏わせ逸らそうと試みるも触れた瞬間に何の抵抗もなく切り裂かれる感覚を覚え、予定を変更。
「はぁぁっ!!」
身体を反らしながら片足で飛び上がり、全身を横へ傾けて剣の隙間を滑り込むようにやり過ごす。
侮っていたと言うつもりもない。
だが、此方の防御は意味を成さないほどの差があるなんて思いもしなかった。
これが天才と呼ばれる者の魔導。
制御が違う。何よりも密度が段違いだ。
同じ量の魔力だとしても魔導だけなら絶対に負けるだろう。
「すごい肉体制御ですね――っ!!」
横へ傾けた勢いで回転しながら着地すると同時にギアを上げる。
――
自分の無茶苦茶な躱し方に対する賞賛に応える事なく突撃。
合わせて彼女の魔導式が起動し、無数の魔力弾を知覚する。
「う、らぁぁぁ!」
身をかがめ、半円を描くように身体をずらし、時に滑りながら襲いかかる魔力弾をすり抜けるように駆け抜ける。
触れては行けない。
今の自分では逸らすことすら難しいだろう。
「次ぃぃ!!」
「お望みどおり」
かなり距離を縮めたはずだが、未だ接近する自分に焦る事なく次の手を彼女は打ってくる。
「っ!!」
突如として背後から何かの気配を感じて飛び上がる。
飛び上がった眼下でやり過ごしたはずの魔力弾が後ろから襲う形で通り抜けるのを確認する。
高度な制御を必要とする誘導弾。
彼女の制御能力を考えれば当然の物だ。
「マジかよ……」
だが、天才と呼ばれている彼女が只の誘導弾で終わるわけがなかった。
無数の誘導弾は自分を取り囲み、その形を変えていく。
球体である魔導弾は細長く伸びて鳥籠の形を形作る。
「上空ですし先程みたいな無茶な避け方されても困りますので確実に捉えます」
いや、おかしいだろ。
式で作られたはずの球体が形を変えるとかどんな制御してんだよ!?
拘束式だとしてもどんだけ気合入ってんだよ。
内心で叫ぶも鳥籠に結ばれていく魔力弾は狭まるように完成へと近づいていく。
身動きを取ろうにもここは上空。
障壁を足場にしたくとも今の出力では自分の体重を支えることは難しいだろう。
故に最大までギアを上げる。
――
「おぉあぁぁぁぁ!!」
鳥籠の完成の直前。
全開駆動により強度を取り戻した障壁を足場になんとか脱出する。
同時にいくつも空中に障壁を展開し、複雑な立体機動を取りながら未だ追跡してくる誘導弾をやり過ごして彼女へと接近する。
「普通、出力は上がらないはずなんですけどね」
誘導弾を振り切って着地すると共に間近で耳に届く彼女の声。
結構ギリギリというか必死のあがきの末ようやく辿り着いた己の決戦領域。
「色々バカをやらかした成果だと思ってくれ」
構えた拳を待ち受けるようにに腰に差していたロッド型デバイスを構える彼女。
此方に獲物が無いわけじゃない。
しかし使う時は今じゃない。
例の如く色々とピーキーなものなのだ。
よって拳で応戦することになる。
リーチの差がある獲物持ち相手には拳は不利だろう。
だがここは俺の領域だ。
負ける訳にはいかない。
「おぉぁぁ!!」
「はぁぁぁ!!」
突き出した拳に合わせて振られるロッドを最小限の動きで捌く。
向こうも流れるようにロッドの長所である円運動を利用して拳に負けない手数を生み出していく。
交差する腕とロッド。逸らすたびに散る光を振り払うように繰り出す蹴りを躱す華麗な体捌き。
恭平のように絶技や超越したレベルまでは行かずとも間違いなく達人の領域に片足を突っ込んでいる。
自分も魔導抜きなら中々の物だと思っていたが、どうしてこう現実っていうのは非情なのだろう。
自分よりも研鑽した時間は短いだろう少女にこうも簡単に己の半生を賭けた技術が及ばないなんて。
まともにやりあえば近いうちに負ける。
全開駆動だからこそなんとか打ち合えてはいるが、効果時間は短い。
出力リミッターはかかっているが、消費魔力は変わっていないのだ。
つまり後数十秒も持たない。
「ちぃっ!!」
「せぇぃ!!」
正拳突きの要領で突き出した掌底を間に差し込まれたロッドに止められる。
そしてこの後反動を利用して回転させたロッドが自分の脳天目掛けて襲いかかるだろう。
「!?」
そう。
自分はこの攻撃を、一連の流れを知っている。
正確に言えばこの棒術の元となっている流派を知っている。
多少アレンジはされてはいるが、大本から余りずれてはいない。
「しっ!!」
来るのがわかっているのなら自分でも対処することができる。
ロッドに阻まれて詰めきれなかった距離を斜め前に出ることで回避しながら詰める。
「はっ!!」
躱されたことで半歩引き、回転しながら薙ぎ払われるロッド。
合わせて自分も踏み込み振るわれるロッドの根本に手を添えて持ち上げることでやり過ごす。
距離を離しつつ有効な一打を与える効果的な一撃。
恭平が鍛錬の過程で厄介、もとい流派を実演して叩き込んでくれたお陰だ。
持ち上げられたことで本来の形で行わる彼女の体捌きは崩れ、ようやく決定的な隙を晒してくれた。
「おぉぉ!!」
切り札を切るならばここ以外ない。
振りかぶった左手に魔力を集中させる。
同時に腕のデバイスが唸りを上げて魔導式を起動する。
手に集まった魔力は普段腰に差してある短刀ほどの長さの魔導剣を形作り、確かな感触を得て勢い良く振り抜いていく。
「くっ!!」
対処が間に合わないと察した彼女は刃の進行上に分厚い障壁を展開する。
リミッターがかかっている状態でも強固と解る障壁だ。
このままでは自分が作り出した刃など通ることなどないだろう。
だから全部賭ける。
勢いをつけた魔刃が障壁に触れる瞬間左手に集めた魔力以外を全て切った。
発想は一ヶ月前の【狂犬】との戦闘。
全開駆動を一部を残して切る。
これだけなら只の限定駆動だ。
だが、全開駆動は切っていない。
切った分のリソースを全て魔刃へと注ぎ込む。
たった一瞬に全てを懸けて。
「――ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
――
ほんの一瞬の拮抗。
激しい光と共に分厚い障壁を切り裂いて彼女の身体へと辿り着いた。
十分な手応えを残して振り抜いた魔刃は役目を終え光となり霧散する。
同時に魔力を振り絞り強化式を纏い直して、魔力衝撃によりふらついている彼女へと拳を突きつけて口にする。
「はぁ、はぁ、俺の勝ちだな……」
魔力を使いすぎたことでちょっと息が切れてるのでカッコつかないが、とりあえず合格ということにしといてくれ。
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