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 組み上がったのは、巨大ロボットである!

 そう、変形合体の、アニメでは御馴染みな、巨大ロボットだ! もちろん、デザインしたのは、市川本人だ。

 デザインは『蒸汽帝国』の世界観に合わせ、ごつごつとして、リベットが剥き出しの、スチーム・パンク風にしている。

 ロボットは、まだ起動せず、地面に横たわったままになっている。市川は惚れ惚れと、自分がデザインしたロボットを眺めていた。

 市川がアニメーションを志した切っ掛けは、何と言っても、無数に制作されたロボット・アニメに魅せられたからだ。

 男の子なら当然、ロボット・アニメを夢中になって視聴するのは当然である。

 市川は、子供のころ、どうしてもアニメに登場するような、巨大ロボットに乗り組みたいという、夢を見ていた。子供時代を通りすぎ、幾らか現実を受け入れる年頃になっても、密かに、自分が巨大ロボットの操縦席に座る姿を想像していたのである。

 だから、目の前の巨大ロボットには、操縦席がちゃんとある。しかも、五人分だ! ロボットは、全員が搭乗して操縦する方式になっている。上半身の、脇腹付近が搭乗口になっていて、小さなハッチがついている。

 市川は、小躍りしながら、ロボットに近づいた。背後を振り返り、全員に乗り込むよう促した。

「さあ、やるぜ! 乗り込め!」

「やれやれ……」と、山田は苦笑しつつも、よっこらしょと太った体を押し上げ、ロボットの操縦席へと、よじ登る。ハッチの直径は、山田の腹ぎりぎりであった。

 三村は無言で、するりと痩身をハッチに潜り込ませ、内部へと消えていった。

「何の因果か、まさか自分がロボットに乗り込むなんてなあ……」

 新庄もぼやきつつ、山田と三村の後に続いた。新庄の後から市川はハッチを潜る。

 窮屈な通路の両側に、各々が座る席がある。席は身体にぴったり密着する造りで、内側には分厚いクッションが装着されている。ロボットが歩いたり、戦ったりする時の震動から操縦者を保護するのが、役目である。

 新庄と山田、三村の三人は、すでに自分の操縦席に納まっていて、ほとんど身動きが取れない状態だ。三人は天井を見上げる形で、地面からは横になっているが、ロボットが起動して起き上がれば、真っ直ぐ前を見る格好になる。

 市川は通路から苦労して振り返り、ハッチの向こうから覗き込んでいる洋子を見た。

「おい、宮元さん。どうするんだい? 来るのか、来ないのか、決めてくれ!」

「この馬鹿らしい世界からおさらばできるなら、しょうがない。付き合うわよ!」

 洋子は頭からハッチに潜り込む。が、ハッチに洋子の巨大な胸が突っかえてしまった。たちまち洋子は、顔を真っ赤に染めた。

「引っ掛かったじゃない! 市川君、なんとかしてっ!」

 じたばたと両手を市川のほうへ突き出す。

 市川は慌てて洋子の両手を掴み、渾身の力を込め、引っ張った。

「きつーいっ! 設定するとき、何で、もう少し広めに設定しておかないの?」

 洋子は悲鳴を上げ、市川は困惑していた。

「まさか……宮元さんが引っ掛かるとは……思っても見なかった……ハッチは……山田さんの腹が通ればいいと……思ってたが……あんたの胸が……こんなに……でかいなんて! 糞、計算違いだ!」

 息を切らせ、途切れ途切れに答える。本当に、洋子の胸は大きい! 何たって、山田の腹より大きいのだから……。

 すでに操縦席に着いている山田、新庄、三村の三人は、ぴったりと全身が収まっていて、動けない。市川一人が、対処するしか他に方法はなかった。

 足を通路の壁に突っ張り、市川は全身の力を振り絞り、悪戦苦闘する。

 ずるずるっ! と、遂に洋子の上半身が滑り出した!

 どどっ、と洋子の身体が押し出されるように通路に倒れこむ。洋子の身体の下に、市川は押し潰される。市川の顔に、洋子の胸がふんにゃりと押しつけられた。

「むむむむむむ!」

 乳房に顔を思い切り埋め、市川は窒息して喘いだ。

 息が全然できない!

 はあっ、はあっと荒い息を上げ、洋子がようやく腕をついた。市川は、やっと洋子の胸から解放された。

 ぷあーっ、と市川は空気を求め、大きく口を開けた。新鮮な空気が、どーっと肺に送り込まれる。

 と、上から洋子の顔が、近々と覗き込むように接近していた。

 洋子と市川の瞳は、まじまじと見詰め合っていた。

 洋子の頬がぽーっ、と赤く染まる。

 綺麗だ……と、市川は、なぜか思っていた。

 洋子が目を閉じる。唇が近づく。洋子の息が、市川の顔に掛かっていた。

「来るぞっ! 二人とも、早く席に着いてくれっ!」

 出し抜けに新庄の喚き声が響き渡り、二人は「はっ」と我に帰る。

 そうだ、こんな場合じゃない!

 市川と洋子は、そそくさと起き上がり、各々の操縦席へ潜り込んだ。

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