4
「失礼致します! 報告に参りました!」
ドアの向こうから、四角張った声が聞こえ、市川は三村を振り返った。
三村は、ぐっと背を伸ばし、王子らしい物腰を取り戻していた。
「入ってよろしい!」
凛とした、王子らしい命令口調である。市川は、三村の変貌ぶりに呆れた。
がちゃりと音を立て、ドアが開くと、全身を、ぴんと突っ張らかせた騎馬隊長が立っている。相変わらず、口髭はこってりとポマードで固め、両端をピンと撥ね上げていた。
「現在、飛行船はバートル国の領内に入りました! 護衛の者、総て到着に備えておりますので、是非とも殿下の謁見を賜りたく存じます!」
市川たちの視線が素早く交わされた。山田は市川の向かい側に立ち、頷く。無言で「設定画を完成させた途端だな!」と目が語っている。市川も頷き返した。
つまりは、隣国が存在を始めたのだ。
「分かった……。今、行く」
三村は鷹揚に頷いていた。三村の態度は、微塵も元々の気弱さを感じさせない。
かちゃん! と踵を打ち合わせ、騎馬隊長はきびきびとした敬礼をして退出した。
「おい! ストーリーが動き出したじゃないか!」
新庄が爛々と目を輝かせている。
市川はさっと身を翻すと、窓に顔を近づけ、外を覗き込んだ。
地平線の彼方に、森に囲まれた王宮と、その周りを城下町がぐるりと取り囲んでいる。全体に中世ぽい雰囲気で、ごつごつとした岩山に、へばりつくように城が聳えている。
市川は子供のように叫んでいた。まさしく、たった今、山田が設定したお城である。
城のデザインは、中世ヨーロッパに準拠していたが、山田は中近東らしき、モスクの建築様式も取り入れ、どことなく無国籍な雰囲気を漂わせている。
「バートル国の王宮だ!」
市川の側に洋子が近づき、顔を並べた。
「本当だわ! 凄く綺麗……」
無意識であろうが、洋子の胸が市川の背中にぎゅっと押し付けられていた。柔らかな胸の丸みが、はっきりと感じられ、市川は思わず顔が火照るのを感じていた。
「おい! 外を眺めるのは、いつでもできる! それより、謁見だ!」
新庄の言葉に、市川はぎこちない仕草で、窓から身を離した。
洋子も身を離し、市川の背中の二つの重みが消えた。もう少し、堪能したかったのに!
ドアを出て、狭苦しい廊下を三村を先頭にぞろぞろと歩く。
真っ直ぐ進むと、船尾部分に向かう。そこは広々として、公的な行事を執り行える構造になっている。
船尾には、すでに三村の──いや、アラン王子の謁見を待つ護衛の兵が整列していた。
みな、きちんと制服の皴を伸ばし、背筋をぴんと反らし、アラン王子の今や遅しと、到着を待っていた。
「アラン王子殿下! 謁見──!」
入口で待ち受けていた儀場兵が、爵杖を振り上げ、高々と語尾を延ばして叫ぶ。ざざっと音を立て、全員が直立した。
ゆったりと王族の威厳を漂わせ、三村が歩き出す。市川たちは御付きの者であるので、入口付近に立ち止まって控えている。
と、市川の視線が、列の真ん中付近に立っている一人の女兵士に止まった。
あの女だ!
なぜか女兵士は、ぎらぎらと怒りの視線を三村に注いでいた。口許がぎゅっと引き絞られ、強情そうな意志の強さを顕している。
三村が女兵士の前を通り過ぎると同時に、女は腰の剣をすらりと抜き放ち、叫んだ!
「アラン王子! 覚悟!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます