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「そりゃあ、できるけど……」
洋子は不服そうに唇を尖らせた。
色指定の番号でやれる、というのは、洋子がデジタル以前の、手作業で色を一枚一枚しっかり塗っていた頃の作業をやっていた証拠である。歳がばれると思ったのだろう。
洋子は市川からキャラクター表を受け取ると、素早く色番号を指定し始めた。
「あら?」
洋子は目を丸くした。
「どうした?」
市川と山田は、洋子の手許を覗き込んだ。
「色が……」
洋子が手にしたキャラクター表に、見る見る色が着いていった。鮮やかな色彩で、あっという間に色指定表が完成していた。
「おいおい、こっちもだ……」
山田が頓狂な声を上げる。
市川は山田の美術設定を見て、驚いた。
「山田さん、いつ色を着けた?」
山田の描いた美術設定には、すでに色が着色されていた。背景画そのもののタッチで、美術ボードとなって完成している。
山田は呆れたように首を振った。
「判らねえ……。おれは設定を描くとき、絵の具で描いた完成画を頭に浮かべて描くんだが、一枚、描き上げた途端、こうなった……」
「ふうん」と市川は一人、頷いた。
「多分、これも、この気違いじみた世界での約束事なんだろうな。いいじゃないか! 山田さんも、ラクできらあ!」
新庄が立ち上がり、三人の背後に立った。
「美術設定と、キャラクター表ができたのはいいが、これをどうするんだ?」
市川は三村を見た。
「そりゃ、常識的に考えれば、木戸監督に渡してOKを貰う段取りだよ。三村が制作進行なら、届けなきゃならねえ……」
「僕が、ですか」
恐る恐る、三村は市川と山田から設定画を受け取った。
「わっ!」
三村は小さく悲鳴を上げた。
何と、受け取った三村の手許から、設定画がじわじわと空中に溶け込み、消えていった。
きょろきょろと五人は、客室の内部を見回していた。
「どこへ行った?」
「消えちまったぞ!」
はらり……と空中から再び用紙が出現し、ふわりと床に舞い散った。
一枚を手に取り、市川は喚いていた。
「これを見ろよ!」
全員が市川の手許を注目した。市川は一同に用紙がよく見えるよう、掲げた。
「木戸さんの……」と新庄。
「OKサインだ!」これは山田。
出現した設定用紙には、木戸監督のOKサインが、でかでかと書かれていた!
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