第七話 タイミング・シート乱れ打ち!

1

 三日が過ぎ、市川はようやく解放されて、ヘロヘロの状態で引き出された。

 身動きがとれない、狭苦しい部屋での禁固刑が、これほど体力、気力を消耗するものだとは、思っても見なかった。今度、主人公が牢獄に閉じ込められるアニメの仕事があったら、リアルに作画できるなと能天気に思った。

 刑期を勤め上げた市川は、新庄の執務室に迎え入れられた。執務室には、すでに山田と洋子が待っている。

 長椅子にへたりこんだ市川の目の前に洋子が立ちはだかり、両手を腰にやって高々と説教する。

「馬鹿ねえ……。あんたが馬鹿だとは前から思ってたけど、あれほどの掛け値なしの、最低の大間抜けだとは知らなかったわ!」

 市川には言い返す気力は、一ミリグラムも残ってはいなかった。

「おい、説教もほどほどにしとけよ。市川君も、こってり身に応えたろうし」

 山田が相変わらずの、のんびりとした口調で嗜める。洋子は「ちっ」と舌打ちした。

「それで、王子様が三村君だってのは、確かなの?」

 市川はのろのろと顔を仰向かせ、洋子の質問に軽く頷いた。

「そうか」と山田は腕を組む。

 軽く眉を寄せ、何か考え込む仕草である。

「どうなるんだろうな……。これからストーリーは、まともに進行するんだろうか?」

 その時、ばたり! と大きな音を立て、執務室の扉を開いて、新庄がせかせかした様子で入室してきた。

「大変だ、大変だ! 大変だったら、大変だ!」

 まるで歌うように、奇妙な抑揚をつけている。「大変だ」と言う割には、表情は輝き、両目にはウキウキした態度が見られる。

 山田は腕組みを解き、新庄を見た。

「どうしたんだ……」

 新庄は扉を背中で閉めると、その場で小躍りしている。

 顔を上げると、注目している三人に気付き、照れたように額をぴしゃりと、手の平で打った。

「ニュースだ! 大ニュース! 何と、五番目の王子様の結婚が決まったぞ!」

「何だって!」と、三人は一様に叫ぶ。市川もまた、それまでの鬱々とした状態から、一気に目が覚めた思いであった。

「五番目の王子様って、三村の……?」

 市川の呟きに、新庄は大いに頷いた。

「そうさ! 前々から話はあったが、今度の成人の祝いと同時に、発表があった! 王子様──つまり三村君は、これから隣国のお姫様に会いに出発する! しかも、おれたち四人が、御付きの者として選出された!」

 さっと市川は立ち上がった。

 やりやがった!

 おれの忠告に従い、三村の奴、行動を共にするため王子の特権を利用したんだ!

 ストーリーが動き出した!

 これからの予想は困難だが、これで現実世界への帰還が、一歩だけは近づいた!

 その時、市川は、心底から確信していたのだ。

 少なくとも、この時点では……。

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