第61話 もう1人の『魔法少女』

 


  サマンサの魔女の世界への愛は、京◯の人が◯都を誇りに思っているようなものに通じた。



  「それでは、『私の』この魔女の世界で一番素晴らしい物をお見せ致しますわ」


  もっとも、魔女の世界は全てが素晴らしくてとても全部は紹介しきれないんですけど、などと可愛い蛇足をくっつけながら。


  付いてきたのは何の変哲も無い建物ーーというかーーどう見ても日本の神社だった。

  小ぶりではあるが、鳥居、手水、鈴、賽銭箱に至るまで見事に日本の神社の形を成していた。


  ちょっと気になったのは、建物も鳥居も新し目であったという事だった。

  建てられて10年ちょっと、といった所だ。


  「この箱に自らの魔力を注ぎこんで、それからこの鈴を鳴らすと魔力が増量すると言われてますのよ」


  「え、いや、サマンサ、これは人間界でいう日本の……」


  「しっ! パパ!」


  紗里子が小声で俺の言葉を塞いだ。

 

  「どうかしら? この見事な建物。魔女の世界はキラキラと華やかな所が多いですけど、こんな風に渋くて立派な建物もあるんですのよ。こういう所が、魔女の世界の懐の深さなんですの」


  どうしよう、サマンサが完全に誤解している。

  ……でもまあ人間界の建築物を魔女のサマンサが喜んでくれてる事自体は嬉しいというか……光栄な事だ。それに面白いから黙っていよう。


  「サマンサ、とっても素敵な所に連れてきてくれてありがとう……」


  「お礼には及びませんわ。人間界というゴタゴタした所に住んでいると、こういう静かな場所も欲しくなるでしょう。マミも魔法を使って人間界にこんな建物を作ったらいかが?」


  鼻高々のサマンサだったが、隣にいたキーキは笑いを堪えていた。どうやらキーキは人間界の『神社』を知っているらしかった。


  どうしようかな、と思ってふと建物の脇に目をやると、ローマ字で何事かが彫られていた。


  「!!!!」



  ーー『Kazuo.T』。


  高田和夫。

  紗里子の父親の名前だ。

  高田はやはり、魔女の世界に来ていたのだ。


  芸大の中でも建築学科に籍を置いていた高田は、こんな所に人間界の『文化』を残していたのか。


  こう言っちゃなんだが、他人(魔女)の世界に来て自分ところの建物を作るなんてあまり良い趣味とは言えなかったが……。


  それにしても、高田がいた形跡が認められたのは大きな進歩だと思った。


  「サマンサ、良い所に連れて来てくれて本当にありがとう!!」


  俺が改めて(別の意味で)礼を言うと、サマンサは


  「いいえ、魔女の世界の幅広さを解ってくださればこちらも何より嬉しくてよ」


  と、トンチンカンな返しをした。


  「そうね、後は食べ物かしら。魔女の世界で一番美味しい物と言ったら、やっぱりーー」



  「私も美味しい物食べたいわ!! 仲間に入れてくださいニャ!!」



  その声はーー。

  俺の瞳がギラリと光った所をその場にいた全員が見てしまったらしく、皆が少し腰を引かせた。




  ルシフェルだった。




  ルシフェルは、相変わらずの白いゴスロリ服にヘッドドレスを付けて、猫のポーズで両手を頭のサイドに丸めたまま首をかしげていた。

  脚は内開きに形作っていた。


  「紗里子ちゃん、マミちゃん、久しぶり!! こんな所で会うなんてぐうぜーん!!」


  「み、美砂ちゃん、も、ここに来てたの?」


  紗里子を始め、俺のコイツを射抜くような視線を見ていた他の少女達は、美砂と呼ばれたその少女を歓迎すべきかどうか迷っている風だった。


  「そうだよ! 退屈だから魔女の世界をお散歩してたら、こんな所まで来ちゃった!?」


  すると、グループの中でも一番の『お姉さん』であるキーキがまず口を開いた。


  「え、えーと。白井美砂ちゃん、かな? サリコの言ってた『転校生』の……」


  「そうだよ! 知ってるの!? ねえねえ、紗里子は私の事どんな風に言ってた!?」


  悪口なんて言ってたら承知しないんだからあ、などとすっとぼけた事を抜かしやがる。悪魔が悪口なんて言葉を使う事自体が気に入らない。


  それにわざわざ恋敵である高田に関する所に現れるなんて、どういうつもりだコイツは?


  魔女の少女達も、その溢れ出る異様な空気で『白井美砂』が俺や紗里子とは別次元の『魔法少女』である事を悟ったらしかった。さすがホンモノの魔女だ。


  サマンサが慌てる。


  「え、えーと、美砂さん? 貴女も観光に参加したいんですの? でしたら別に私達は……」



  「コイツが付いて来るんだったら俺は降りるぜ。レイの家に戻らせてもらう」


  「パパ……」


  もはや女言葉は捨てた。

  ルシフェルはニコニコ笑いながら、マミちゃんこわ〜い等と言い、キャッキャウフフと紗里子に抱きついた。


 

  「紗里子に触るな!!」



  俺は怒りを抑えられずに叫んだ。

  ルシフェルは、キャアと言いながら慌てて紗里子から手を離した。


  手を離した際にニャーと言ってずっこける。

  紗里子や他の2人が心配する。


  ここまでがワンセットだった。

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