第60話 サマンサは魔女の世界を愛し過ぎている
サマンサは魔女の世界を愛し過ぎていた。
「では、せっかくですし私(わたくし)が2人に魔女の世界を深くご案内致しますわね」
人間界に留学した時のお礼とばかりにサマンサは張り切った。
「私も行くー!」
キーキも頑張った。
連れて来られたのは魔女の世界の活火山。ずっと噴火したままの山らしかった。
ゲル状に流れていく溶岩が人間界のそれとは違いブルーの色をしていた。
「人間界の活火山は赤いらしいですわね。それも綺麗そうですけど、魔女の世界のこのブルーも素敵でしょう」
俺達はサマンサの魔法で空を飛びながら山の周辺をぐるぐる廻った。
サマンサは相変わらずのオレンジ色のワンピースを着ていた。
いつか言ってた『魔女の証』だ。
「ブルーの溶岩なんて見た事ないわ。何だか、カキ氷のハワイアンブルーみたいで美味しそうね」
「はわいあんぶるー? 何ですのそれは?」
俺の素朴な感想に質問で返すサマンサ。
そうだった、魔女はカキ氷なんて知らないんだった。
サマンサの事だから食べたらきっと感動するだろうな、と俺はまた悪巧みを思い付いた。
アレは食った後で舌が真っ青に染まるから、鏡を見せればさぞかし面白くビックリしたリアクションを取ってくれる事だろう。
一休みして紗里子がサマンサとキーキにこれまでにあった『人間界での楽しかった事』を話しだした。
「学校でね、新しく転校生が来たんだー! 白井美砂ちゃんっていうんだけど、とっても綺麗なのにドジっ娘で危なっかしい所があるの!!」
よりにもよって白井美砂ーールシフェルの事を話題にした紗里子。
アイツが紗里子の心臓を引き裂きたがっているというのにーー直截な言い方はしていなかったがそういう事だろう、と俺は思っていた。
紗里子はルシフェルの話を続けていた。
「しかもね、その子……。マミや私と同じ魔法少女だったの!! びっくりしちゃったあ!! しかもすっごく魔力が冴え渡っているのよ!!」
もはや自慢だった。
「あら、そのシライミサさんという方は、『最強の魔法少女』であるマミよりもチカラが強いのかしら」
サマンサが悪気なく痛い所を突く。
俺が『最強の魔法少女』をやっていたのはルシフェルの加護を受けていたからであるので、ルシフェルの本物である白井美砂に叶う訳がない。
紗里子は本気で言った。
「マミとは、勝るとも劣らず、って感じよ! 私なんて2人に比べたらお手伝いさんみたいなものなんだから」
「お手伝いさんだなんて! 可笑しいわ」
赤い瞳のキーキがケラケラ笑った。
「そのミサちゃんって子に会ってみたいわね。私、綺麗で魔力の強い子って大大大好き」
ん? 何だか話の雲行きが怪しくなってきた。
「しかもドジっ娘でしょう? 『妹』にしたいわ。い・も・う・と!」
……そういう事か。
紗里子がやけに『百合』という言葉に詳しいようだから不思議に思っていたんだが、このキーキからの入れ知恵だったのだ。
キーキは紗里子の細い手を自身の膝に乗せて、絡み合わせるように弄っていた。
それを何気なく解く俺。
「じゃあ、次は温泉に行って温まりましょう」
サマンサが観光案内を再開させようとしたが、俺は温泉と聞いてびくりとした。
前に、紗里子や百と温泉に行って、俺の小さな胸を憐れまれた事があるのが未だに心に焼き付いていたのだった。
しかも、百合姉さんのキーキに紗里子の裸を見せたくない。
いくらキーキが美少女でも駄目なものは駄目だ。
ーーと。
「きゃあ! サリコったら、どうして服を脱ごうとしてるの!?」
「え? だってお風呂……」
露天風呂に浸かっている他の魔女達が不審な物を見るように紗里子に視線を送っていた。
彼女達は皆、服を着たまま湯船に浸かっていたのだった。
「ふう、まさか人間界ではお風呂に裸で入るだなんて思いもよりませんでしたわ」
「こっちこそ、もう少しで恥ずかしい目に遭うところだったよー!」
俺と紗里子は2人してブーブー言った。
「言われてみれば、マミやサリコのお家にお邪魔していた時にバスルームなんていうのがありましたわね。もっとよく調べてみるべきでしたわ」
しかし、魔法少女の衣装は吸水性にも優れているらしく、まるで裸になっている時と変わりない湯ざわりだった。
「そう言えばサマンサ、人間界にいた時にプレゼントした服、着てくれてる?」
俺はふと気になったのでお湯の中で腕を擦りながら聞いてみた。
サマンサはしょんぼりして言った。
「あの、人間界のカワイ……妙な服ですわね。その節はありがとうございましたわ。あ、あの服は……」
「そんな服着ちゃいけません! ってお母様に叱られちゃったのよねー?」
サマンサが慌てる。
「キーキ!! 贈ってくださった方々の前でそんな事を言うのは失礼ですわ!!」
そうかあ。ママに怒られちゃったかあ。
「でもね」
キーキはウインクして行った。
「サマンサ〝ちゃん〟は、人間界で買って貰った服を大切に取ってあるのよ。しかも、お母様が寝た後で、大鏡の前で1人ファッションショーしてるのよ、私見ちゃった!」
「キーキ!? いつの間に!?」
顔を赤くして湯船から立ち上がるサマンサに、それを止めようとする俺と紗里子。
服はお互い、一滴も濡れてない。
俺は、態度ではツンツンしながらも、そうまでしてプレゼントした服を大事にしてくれているサマンサが可愛く見え、百合も良いかな、と思ってしまった。
……まあ俺の事に関すると怒りん坊になる紗里子が許さなかっただろうが。
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