第59話 ルシフェルの娘・アラディア
「パパ、今日、私の両親を見つけに行きたい」
まさかこんなにも早く、紗里子の方から神妙な面持ちで提案してくるとは思わなかった。
『パパの気持ちを楽にしてあげたいの』
紗里子はそう言ってくれていたように聞こえた。
「……そうだな」
春休みでもあり、家の事は百とルナに任せるとして、俺達はその日、元凶の地である魔女の世界に転移する事にした。
この先何が待っていようとも。
俺は紗里子を守る。
たとえ紗里子の心臓が引き裂かれたとしても。
俺が必ず復活させてみせる。
だけど俺には何の解決方法もない。
だが紗里子の本当の父親である高田和夫と母親のサリエルは復活させなければいけない。
それがルシフェルの望みならばーー神、ゼウスのチカラも併せて何か奇跡が起こるのではないかと期待していた。
リリィ・ロッドに連れられてやって来たあの懐かしい魔女の世界。
そこには、あの金髪ツインテールの魔女、サマンサと、赤い瞳を持つ茶髪のキーキが待っていた。
「サリコ!! それにマミちゃん、久しぶりー!! 人間界は大変だったって聞いてるわ、どうだった?」
赤い瞳のキーキが心配げに話しかけてきた。
「うん。でも大丈夫。たくさん人が死んじゃったけど、それは悲しい事だけど、今は元の世界に戻りつつあるわ」
いつも明るく笑っている紗里子の神妙な面持ちに、キーキは少し怖気付いたようだった。
金髪ツインテールのサマンサはその辺の事情をよく勉強していたと見て、キーキよりは紗里子に対する扱いがしっかりしていた。
「人間界も魔女の世界もルシフェル様に支配されていますわよね。魔女達のこの世界も無くなってしまうんじゃないかって話題で持ちきりですわ」
「私、そんな事はさせない」
紗里子は遠い目でキラキラ輝く魔女の世界を見つめていた。
「まず、アラディア様の所に行きましょう」
サマンサが提案した。
『アラディア』というのは、魔女の世界のお姫様たる『レイ』の母親であり、つまりはこの世界の女王だ。
レイが俺の額にキスした瞬間から、俺の『最強魔法少女』としての生活が始まった。
その母親と会うという事は、どういう事を意味するのか。
中世ヨーロッパ風の小さな城に着くと、そこにはレイと『アラディア』が待っていた。
「はじめまして、『魔法少女』マミさん。私がアラディアです。貴女が私の父、ルシフェルの加護を受けた人間の女の子ね」
父、ルシフェルという言葉には驚かされた。つまりこのアラディアはルシフェルの娘で、レイはルシフェルの正当な孫娘という事になる。
「父の考えている事は娘の私にもよく分からないの。だけど神ゼウスと人間界の取り引きをして何らかの存在になろうとしている事は分かるわ」
アラディアは娘のレイと同じ銀髪で、金色の瞳を持っていた。
「何となく分かっています。ルシフェル……さんが、悪魔という肩書きを捨てて天界に帰ろうとしている事、もしくは人間界の神になろうとしている事」
アラディアはため息をつく。
「やっぱりそうだったのね。父は、サリコちゃんの母親を愛していて、それ以来何事かを考えている様子だったわ」
紗里子は黙っていた。
しかし、やがて重々しく口を開いた。
「……私の、本当の両親はどこにいるのでしょうか」
アラディアは困ったような様子だった。
まさか貴女の心臓の中にいるとは言えまい。
ーーと。
「私の身体の中にいるのですね」
俺は驚いた。
紗里子が真実を知っていたなんて、予想外の事だった。
紗里子は告白した。
「子どもの時から、父や母の『精神』が私に語りかけているような、それで呪文が口をついて出るような、そんな気はしてたんです」
「紗里子、お前……」
紗里子は俺から目を逸らし、言葉を続けた。
「ごめんね、パパ。今まで黙ってて。両親の事をどうでもいいって言ってたのも、本当は怖かったからなの。自分が自分じゃないみたいで……」
「……」
「本当はずっとパパと普通の生活をしていたい。でも、私のお母さんを復活させなければ、この魔女の世界も無くなってしまうかもしれないんでしょ? 私、それはイヤだな。キーキやサマンサ、それにレイの居場所が無くなるなんて」
紗里子は何かにこらえるように一気にまくし立てた。
「……そうだな。ルシフェルが天界に帰ったら魔女の世界も消滅する」
そうさせない為には、ルシフェルの血を継ぐアラディアやレイではなく、上級魔女のサリエルーー紗里子の母親の存在が最重要になってくる。
サリエルには天界に帰る意思など無いだろう。
いつも通り、神、悪魔、人間の三つ巴の状態が維持される事になる。
しかし紗里子の母親を復活させた所で、本当に紗里子の肉体は無事でいられるのかそれが大問題だった。
「サリコ!! マミ!!」
銀髪魔女の姫君、レイがドアを勢いよく開けて会議室に入って来た。
「レイ、久しぶり!」
紗里子はようやっと笑顔を見せ、レイと濃厚なハグをした。
「まあ、なんですかレイ、はしたない」
母親のアラディアが嗜めた。
「ごめんなさい、お母様。でもしばらくの間サリコに会ってなかったから嬉しくて」
レイは紗里子が好きで堪らないというようにギュウッと紗里子を抱きしめた。
紗里子は女にモテるんだな。『父親』としては複雑であった。
「会議は終わった? あのね、美味しいお菓子があるの。良かったらあっちの部屋で皆と食べない?」
「食べる、食べる! キーキとサマンサも呼びましょう!!」
紗里子は空元気のように見えた。
やがて少女達はお菓子を食べに部屋を出て行った。
アラディアはため息をついた。
「まだまだ子どもで……。13歳ですものね。マミさんはーー本当は、人間の大人の男性なのでしょう?」
「ええ。でも、魔法を使う為にはもう少しの間、少女の姿でいたいと思ってます」
それが紗里子の為ならば、一生魔法少女のままでもいいとすら思っていた。
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