第17話 ハロウィンパレードにて……
「千葉のテーマパークに行きましょう」
百が朝飯中の開口一番に『宣言』した。
千葉にあるテーマパークと言ったら、あそこしかない。人があふれるあの場所。
そんな所、いつもなら嫌な予感に怯えていたが、今の俺は違っていた。
『人間界が混乱に陥る』。
昨晩、俺専用のリリィ・ロッドが語った言葉だ。
そんなの、人が沢山いる場所で何か事件があってもおかしくない。
俺は最強の魔法少女として人々を救わねばならない。
「いいわよ。行きましょ」
「本当!? マミの事だから『面倒くさい』とか何とか言って断るかと思ったわ!」
「パ……マミ、いいの?」
紗里子が嬉しい気持ちを隠すかのように控えめに問う。やっぱり楽しい事に飢えている普通の中学生なんだ。
「いいんじゃない? お小遣いなら伯父さんが出してくれるだろうし」
『伯父さん』というのはつまり、俺の事なんだが。
「やったあ!! じゃあ紗里子、早速学校にお休みの連絡をしなさいよ」
「え!? 今日行くの!?」
「善は急げよ、今日は良い天気だし」
百は思い付きで行動する方だった。両親の事で悩んでいる中学生少女とは思えない明るさだ。
が、本当は心の中に闇が巣食っているという事を初対面の時に思い知らされた。
闇があるからこそ、明るい方へ明るい方へと行きたがるんだろう。
早速到着した千葉のテーマパークは、平日にも関わらず人でごった返していた。
「じゃあ、まずライド系に乗りましょ。水を被るからハンカチを用意してね」
百ははしゃいでいた。
遊園地で遊ぶ為に学校を休んでしまった紗里子は、少し浮かぬ顔をしていたがそれでもワクワク感は隠し切れないようだった。
そのアトラクションはテーマパークの中でもかなり人気のある乗り物らしかった。
まさか『予約パスポート』とやらを使っても2時間待たされるとは思わなんだ。
入り口に入ると、暗闇の中で行列が出来ている。
ルシフェルが狙う『混乱』を起こさせるには充分なシチュエーションだ。俺は周りに目を光らせた。
しかし、もし異変があったらリリィ・ロッドが異世界から召喚されるはずだし、俺と紗里子も否が応でも魔法少女に変身させられる。
ここは安心して良いらしい。
人形劇のようなものを楽しむと、それからどんどんライドが上昇して行き一気に落ちるという仕掛け。
紗里子も百もキャーキャー言っていて実に楽しそうだ。
俺はというと、何が楽しいんだか分からないと言った死んだ目をしていた事だろう。百に「マミってばノリ悪ーい!」等と突っ込まれた。
やたらファンシーなレストランで食事を摂ると、今度はパレードがあるらしい。
このテーマパークは季節ごとにパレードの内容が変わる。それが売りのようだった。
その日はハロウィンをモチーフにしたパレードだった。
「席! ほら、マミ、紗里子、ここ!!」
目ざとく他の観客の合間を縫って、百が座席を確保する。
「百ってば、ああいう事には頼りになるね!」
と、紗里子が俺に耳打ちする。
ハロウィンらしい、愉快なようなどこか人を不安にさせるような音楽にのって、パレードが始まる。
沢山の踊り子さんや、テーマパークのキャラクターが乗ったワゴンが続々と登場する。
「ほら、マミ、紗里子、凄く綺麗な踊り子さん!!」
百が興奮するが……。
俺には分かっていた。
踊り子さん達は、皆『虫』を飲まさせれている。
楽しいダンスをしているように見えて、目がドロンとしていた。
俺は早速魔法少女に変身する。
「……え? パパ、どうしたの!?」
異変に気付かずにいる紗里子が絶叫する。百もまたもや驚きの目をこちらに向けていた。
百もいい加減慣れても良さそうなものだが、『魔法少女を見た者はその記憶が消えてしまう』という法則は健在なようだった。
俺はパレードの中に走って行って、呪文を唱えた。
「フォルスン アベルトロルテイル ベル・ゼブブ」
踊り子さん達は一斉に倒れこみ、『虫』を吐き出した。
微動だにしない踊り子さん。
それでも観客達は『ハロウィン』の演出の1つだと思っているようだ。しめしめ。
しかし、俺が快復魔法の呪文を唱えると、そこはプロ、踊り子さん達はすぐに態勢を立て直し、ダンスに戻った。
ーーと、1人の踊り子さんが、俺をスタッフの一部だとでも勘違いしたのだろうか。
ゴスロリ服を着た俺の手を取り、ダンスを促した。
……え、ちょっと待って。俺そんなつもりじゃ。
「パパ、頑張れーー!!」
「だから『パパ』って何よ!? 何でマミがダンサーさんと一緒に踊っているの!?」
紗里子と百の会話が聞こえてきた。
どうやら俺は、最強の魔法少女になったついでに耳まで良くなってしまったらしい。
こうなりゃヤケだ。
俺は踊り子さんのリードにのって、滅茶苦茶にパレードの最終地点まで踊り通してやったのであった。
それにしても、踊り子さん達が『虫』を飲まされていた事に気付かなかったらどうなっていた事だろう。
熱中して観ている観客に『瘴気』が移っていたかもしれない。
スタッフ側に『虫』を飲ませるなんてテロと一緒だ。
これからどんどん、こうしたテロが蔓延していく事だろう。
俺はますます、ルシフェルのやりたい事が分からなくなっていた。
「あーあ、今日は楽しかったわね!!」
夜の8時半に打ち上がる花火を観終わって、満足した百がため息をつく。
「また来ようね」
なんて呑気に言っているが、こっちはこれからも人混みの中に行って『虫祓い』をしなくてはいけないんだから大変なんてもんじゃなかった。
「……でもパパ、パレードの時どうして魔法少女になったの?」
「それについては、後で説明するよ」
紗里子も、同じ魔法少女として知っておかなくてはならない事がある。
なるべく負担はかけたくないが。
俺の『補佐』として活躍して貰わなくてはならないのだから、いずれはルシフェルの事も話さなければならない。
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