第8話 海べりのレイプ? 現場

 


  「誰かが、SOSを叫んでるみたい……!」


  紗里子は魔法少女という特殊能力を活かし、いわゆる『正義の味方』をやっていた。

  その『正義の味方』の仕事は、カツアゲしてるヤツの始末からそれこそ人の生死のやり取りまで多岐に渡る。


  強く助けを求めている人間がいると、リリィ・ロッドが異世界からベルを鳴らすらしかったのだ。


  「私、行ってくるね」


  「俺も行く」


  幸い百は着替えを取りに家に戻っているところだった。

  『父親』である俺自身も魔法少女になれるのだから、紗里子だけに任せるのも気が引けたし、どうやら魔力は俺の方が強いようだったからだ。


  魔法少女に変身してからリリィ・ロッドの力で現場までテレポートすると……。


  そこには、ブレザーを着たメガネの女の子が大勢の男子高校生らしきヤツらに囲まれ、海べりの倉庫の隅で震えていた。


  そんな状況でこれから何が始まるのか、勘の鈍いヤツでも察しがついただろう。

 

  「最悪ね」


  紗里子はこういった現場にも何度も鉢合わせた事があるのだろう。

  知識的に何をやっているのか知らないにしても、男達が女を嬲る最悪の宴。

  紗里子の瞳が怒りの炎に燃える。


  「何だ? おめーら中学生?」


  「ガキが何いつの間に入ってきてんだよ。で、何光ってんだよ」


  「まぁいいじゃん。獲物が3人に増えてくれて」


  高校生らしきガキどもがゲラゲラ笑う。

  こういうヤツらが、紗里子の最も忌み嫌う連中だ。


  「まーだこんなヤツらがいただなんてね。何人いる? 30人くらいかしら?」


  周りを観察するように呟く紗里子。


  「いいわ、パパの力が無くても私が全員異世界に飛ばしてあげる。私にも分からない世界にね」


  「訳分かんねー事言ってんじゃねえよ、クソガキ」


  馬鹿にされたと思ったのか、首謀格かと思われる男がメガネの女の子を守るかのように立つ紗里子の胸元を掴み、そのゴスロリ風の魔法少女用衣装を引きちぎろうとした。


  とっさに男の腕を取り、関節技を決める俺。

  魔法を使わなくたって護身用にそれくらいは習っていたんだ。男が悲鳴をあげる。

  その男が小柄だったのも幸いしたのだったのだが。


  と、周りで見ていた集団が一斉に俺と紗里子に襲いかかってきた。


  「サーザース、サーザース、ナースタナーダ、サーザース..........」


  紗里子が呪文を唱えると、例によって男達が苦しみだした。


  ……が、何かおかしい。

  男達の他にも、一方的な被害者であるはずのメガネ少女まで苦しみ出したのだ。


  「ゲボッ!!」


  「ゲボゲボ、ゲーボ!!」


  男子高校生達が、次々にあの見るのもおぞましい蛭のような虫を吐き出し、やがて全員がキョトンとしだした。


  倉庫内がひと時、静寂に包まれる。


  「……あれ? 何やってたの俺」


  「っていうか俺ら今日予備校じゃん。あれ!? ちょっと時間なくね!?」


  「っていうかお前誰?」


  「バイト! バイト!! 店長に叱られる!!」



  メガネの少女には見向きもせず、慌て出す男子高校生達。


  ……良かった。現代には、集団でレイプ事件を起こそうなんていう悪い数10人の少年達なんていなかったんだ。


  ーーたとえそれが、彼らの隠し持っている欲望が『虫』によって引き出されてこの状況を作ったのだとしても。


  一斉に倉庫の外へと出て行く少年達を尻目に、俺と紗里子は『被害者』のはずだったメガネの少女に視線を向ける。


  少女は、割合すぐに呪いが解けた少年達と違いまだ苦しんでいた。


  「サーザース、サーザース、ナースタナーダ、サーザース..........」


  「紗里子、ちょっと待て」


  俺はさっきと同じ呪文を唱え始めた紗里子を止め、考えた。

  彼女には、男子生徒達とはまた違う呪いがかかっているのかもしれない。


  そう考えた俺に向けて、リリィ・ロッドは「よくぞそこに気が付いた」とばかりに光を点滅させた。


  俺の唇から呪文が流れる。


  「エーデルナイ ハーレイス、この者を在るべき姿に戻したまえ」


  メガネの少女はますます苦しみ、やがてあの虫を吐き出した。



  「……大丈夫? 貴女は何故ここにいるのか、記憶はある?」


  少し落ち着かせてから俺が少女に聞くと、彼女はオドオドしだした。


  「あ、あのっ……! すみません、大丈夫、です……! ご心配なくっっ!!」


  少女は、どう見ても自分より年下の俺達に向けて敬語で謝った。

 

  「あのっ、本当に大丈夫ですから……! あ、私、失礼しますねっ」


  慌てて逃げだそうとする彼女を引き留めるように、またもや俺の口から呪文が滑り出した。


  「ソエナ エロイ アメルル」


  すると、少女の口からとんでもない言葉が飛び出した。


  「あーあ……せっかく大勢プレイで処女抜け出来ると思ったのになあ……って、あれ!? 私ったら何を……!?」


  「…………ハーアァ!?」


  「パパ、『しょじょぬけ』って何?」


  「知らなくていい!!」


  つまり、このメガネ少女の奥底にある変態ちっくな願望に共鳴して少年達が集まったと!?


  「パパ、『しょじょぬけ』って……」


  「だから知らなくていい!!」


  ゴスロリを着た中学生くらいの俺達を不思議そうに眺めながら、その少女はメガネをカチャカチャしながら「あのっ、あのっ」と繰り返した。


  彼女は、


  「私、川本七子(かわもとななこ)っていいますっ! って、あれ!? どうして私自己紹介なんて……!?」


  呪文の効果がまだ残っていたようだった。

 

  「おいリリィ・ロッド!! この子助けなんて呼んでないじゃねーかよ!!」


  リリィ・ロッドはすました顔? をしていた。

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