THE GROUND ZERO Chapter1

第1章 レジスタンスの少女

第1章 レジスタンスの少女【1】

 僕は昼間の王都の市街地を、うろうろとゆっくり歩いていた。


 といっても、これは別に兵士として市街地のパトロールをしているわけではない。第一僕は、しばらく、長らくの間、兵士としての任務をまともには、まっとうしていない。


 ここ最近は、レジスタンスという王政自体を廃止しようと目論む反抗勢力もいるらしいので、王国直属の兵士達はその取り締まりも強化しているらしい。


 まあ……今の僕にはもう、関係無いけど。


 王政のまま世の中が進もうと、革命が起きて自由政治が訪れようと、あるいはそれ以上のカオスが巻き起ころうと、今の僕にはどちらでもいい。


 どちらにしろ、僕が幼少の頃から夢見ていた、目指していた勇者にはもうなれないのだから。


 僕が得意とする剣はもう、朽ち果ててしまったのだから。


 王都の市街地……以前までは、道具や食料品を販売するために、各地からやって来た商人達が露店を広げていたのだが、今や道具といえば雑貨店や工具店で、食料品なんかはスーパーやコンビニで購入する時代となり、かつての商人達やその顧客で賑わう声は無くなっていた。


 建物だって、以前は城以上の高さがある建物など存在しなかったのだが、しかし今は、背の高いビルディングという建物の並ぶ場所となっている。


 なんだっけな……商業都市開発が行われるとか、なんとか聞いたことがある気がする。


 今僕が、この王都の兵士でいるメリットといえば、こうやって王都マグナブラと、諸外国の情報が自然と手元に入ってくることくらいだろうか。


 あっ……あと食堂の定食が安い。それと国家公務員ということで、給料もそこそこ良い。


 まあそんなこんなで、情報だけは持っていたわけであり、今この市街地で噂になっている、というより、目の前の電化製品店のディスプレイで映っている、テレビの報道の内容も僕は知っていた。


『繰り返します、今月十日に発生致しました、マグナブラ郊外、魔石発電施設の第三高炉にて起こりました爆破テロ。その主犯格がレジスタンスであることを本日、王都兵士団が公式に発表致しました』


 爆破テロ……これは別に、王都の兵士団がレジスタンスを煙たがっているから、レジスタンスに罪を押し付けたわけではなく、本当にどうやら、レジスタンスの連中が引き起こした事件であるらしい。


 これまで、王政の反抗勢力でありながらも、そこまで過激な行動はとっていなかった連中だったが、しかし今回になってついに、本格的にこの王都に牙を剥いたわけだ。


 そのためここ数日は、市街地の警備強化の命令が兵士には下されており、僕もこうして市街地をうろうろしているのは、一応警備の一環として歩いていたのである。


 まあ……とはいっても、僕の場合は警備をする振りをして、市街地を徘徊して回っているだけなのだけれど。


 目立った功績が無くとも、やってる振りさえしていれば、この王都の兵士は一応クビにならずには済む。


 やる気は無くとも、食いっぱぐれはしたくないからな。

 

 気の無いまま、気の向くまま、特に用の無い市街地をふらふら歩いていると、目の前に細い路地があった。


 しかし僕の目がそちらに向いたのは、その細い路地が気になったからではない。その先で行われている、人のやり取りが目に入ったのだ。


 一人の女性と、二人の男。


 男達の恰好を見て、僕はそいつらが王都の兵士であることを、ひと目で判別することができた。


 そして女性はというと、見た感じは麻か木綿の、茶褐色のドレスをまとっている。おそらくこの王都の市民の中でも、所謂下の階級の娘さんなのだろうか。


 しかしそんなことより、何故兵士がそんな一般の娘さんを、しかも路地裏の人通りの少ない場所で囲っているのか、それが僕には気になった。


 差し脚、忍び足、息を殺して近づいてみる。すると、兵士の男達がその女性に何かを言っている声が聞こえてきた。


「へっへっへっ……こんな所でレジスタンスの女を捕まえられるとは、俺達もついてるよな?」


 レジスタンスの女……ということは、あの女性はそういうことなのか。


 一般市民に変装した、レジスタンスの一員だと。


 もう一方の男が、続けて喋る。


「そうだな、しかも若い女……どうせこいつらレジスタンスに何をしたところで、俺達が咎められることなんてねぇしな」


「そうだな……捕縛する際に抵抗されたとかなんとか取り繕っていれば、どうにでもなるだろ!」


 すると一人の男が、女性の両腕をガッチリと固め、羽交い絞めにする。


「……これが王都の兵士の正体……汚らわしい汚物共め……!」


 女性は正面にいる、もう一人の兵士の男を睨みつけ、声は荒げ無いものの、怒り交じりに言う。


「クックッ……お前がどう言おうと、この王都では俺達が正義、お前達は王都の治安を乱す、低俗な小悪党、そう見られるんだよ。お前らレジスタンスに、この国では人権なぞねえんだっ!」


 声をあげ、男は女性を殴りつけた。


 しかし女性は全く声をあげない。助けを求める声も、あげない。


 ただ一心に、目の前の男を睨みつけているだけ。決して激昂はしないが、憤激の眼差しで睨みつけている。


「そんな目で見てるんじゃねえよ外道がっ! オラッオラッ!!」


 男は殴る、蹴る。女性の顔を、腹部を、両足を執拗に攻撃する。


 それでも女性は声をあげない。涙も一切流さない。


 強いというよりかは、意地なのだろうか。レジスタンスであるがための、この王都と戦う一人の戦士であるが故の意地。


 だから彼女は、こんな悲惨な目にあっていても、殴られて、蹴られて痛めつけられても、助けを呼ばずに、耐えているのだろうか……。


 いや、そうじゃない。助けなど呼んでも、誰も来ないことを、彼女は多分理解しているのだろう。


 相手はこの王都の兵士、そして自分はレジスタンス。悲鳴をあげたところで、この国の人間がどちらの仲間に着くかなど明々白々。


 そんな意味の無いことをするのだったら、戦士としての意地を貫き通そう。弱音を吐かず、最後までレジスタンスとして、敵に抗おうという、そういう腹なのだろう。


 覚悟ではなく、妥協の意地。


 だからこそ、彼女は次の男達の行動によって、その凛々しい顔つきを歪ませたのだ。

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