第六十四話
「ちっ、お遊びはここまでだ。いつまでもこんなところで時間をとられるわけにもいかねえ。そろそろ茶番を終わらせてやれ。」
副長は、気を取り直すと兵士たちにそう命令を下す。
「ふっ、茶番か。そうだな、あまりお前たちに構って娘に心配をかけるのも馬鹿馬鹿しいしな。さっさと終わらせるか。」
凌馬は不敵な笑みを浮かべてそう語った。
そう、凌馬には自信があったのだ。
彼はこの日のために、己の
やって良いことと、決して触れてはならぬ領域について小一時間ほど真剣に。
今、その封印が解かれることになる。
見せてやるんだ凌馬! 新たに生まれ変わったその力を──────。
『
・
もう最近のにはついていけん。やれ○○召喚だ、やれ××召喚だ、タイミングを逃すだ、このカードは△△として扱うだ、テキストに書かれていない事まで特殊な裁定がされていたり。
カードの説明文が既にヒエラティックの難易度越えてるじゃねーか。
動画見ても最早一人ソリティア状態だし。
昔は良かった──────。
○
○
○能力値
力 1000
魔力 9000
素早さ 500
生命力 1000
魔法抵抗 4000
ガン!
凌馬は激しく頭を打ち付けていた。
(おいこらちょっとまてぃや! てめえ、よりにもよってアニメにマンガにゲームなんかにメディアミックスしてるキングオブキングに手を出しやがったな。しかも、さらっとジ○リやヒーローものにまで。括弧書きで訂正するとかそういうことを言ってるんじゃないんだよ! あと求人情報をしれっと出すな。若者が活躍できるとか甘いこといって、とどのつまりベテランになる前に体壊して辞めてるだけじゃないか。ブラックなのは知ってるんだからな。俺の過去の傷を抉ろうとすんな。ダメだ、マジでコイツ全然分かってねえ・・・。)
凌馬は己のスキルのダメな子っぷりに頭を抱えていた。
何だったのだ? これまでに語り合ってきた時間は。
あんまりやり過ぎると本当に不味いぞ。特に熱烈なファンの居る作品はゴニョゴニョ───。
「おまえ、いきなりなにをやっている?」
凌馬の奇行を見た副長が、何か危ない奴を見るような目でそう投げ掛けてきた。
「もういい、俺が間違っていたんだ。ヤツと対話で分かり合おうなんて甘かった。決着をつけなくてはならなかったんだ。これは戦争だ!」
凌馬は決意をしたのだった。
「何を訳のわからんことを言っている? もういい、お前たちこの男を血祭りにあげてやれ。」
『うおおおおお!』
兵士たちが凌馬の元へと進軍を開始する。
(監視か・・・、ウザいな。)
シュバッ!
凌馬は監視の使い魔が現れたのを察知すると、魔力の刃を飛ばして叩き落としスキルを使用する。
『
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ────────!
地面が地響きを轟かせながら揺れ始めると、凌馬の背後の地面の下から巨大な人型の泥のゴーレムが姿を現した。
『ヴオオオォォォォォォ!』
それはあまりにも巨大だった。大きさにして全長五十メートルを超す存在で、四つん這いの格好ですら見上げる必要があった。
ヒヒヒーン!
馬たちは恐怖と混乱で乗り主たちを振り落として、あちこちに逃走を始める。
『うわああああ!』
『なっ、なんなんだよ、コイツは?』
『こんなやつにどう戦えっていうんだ。副長!』
兵士たちが、巨大ゴーレムを見上げ呆然としながらも副長の判断を仰いでいた。
「なっ、なんなんだこれは? おっ、お前は一体何者なんだ?」
凌馬をまるで化け物のような目で見ると、ただその言葉だけを溢していた。
「言ったはずだぞ? 俺はミウの父親だと。お前はなにも分かっていないな。この世には決して触れてはならない存在があることを。」
凌馬は徐に右手を前に突き出すと、意気揚々とそれを口にする。
「薙ぎ払え!」
ちょ、お前までなにノリノリになってるんだ! 実は結構気に入ってるんじゃないだろうな? 止めろよふたりして暴走するのは。こっちの身にもなってくれ!
何処からか魂の叫びが木霊していた。
『グオオオオオォォォォ!』
ドドドドドドドドドドドド──────!
ゴーレムが口を開くと、そこから濁流が飛び出してきて目の前の討伐隊たちを押し流していった。
『うわあああ、ゴボゴボ────。』
『た、助けてくれー!』
三千もの人間たちがなすすべもなく、数キロに渡り流されていってしまう。
「ばかな・・・、三千の兵が一瞬で・・・。こんなことがあり得るわけない───。」
たった一人だけ取り残された副長は、その非常識な現実を受け入れられないという風に言葉を溢す。
「さて、あとはお前だけだな?」
「アメリーナ様! なんなんですか彼は? あのような力を持ったものが居ることなど今まで見たことも聞いたこともありません。彼は一体何者なのですか?」
コーネストは彼のことを知っているだろうアメリーナへと問い掛ける。
『・・・・・・。』
だが、アメリーナはおろかブライアスでさえも開いた口が塞がらないように驚愕していたのだった。
「まさか、これほどの力をもっているなんて・・・。」
アメリーナは凌馬と出会えた幸運と、彼と敵対することだけは何があってもしてはならないと思わされていた。
─ヴィネ─
「どういうこと? まさか監視に気付かれたというの? 一体何者が邪魔をしている?」
ヴィネは使い魔からの信号が途絶えると、そう呟いてから直ちに命令を出した。
「直ぐに討伐隊の援軍の手配をなさい。なにか嫌な予感がします。それと、彼等にも討伐隊に加わるように伝えてきなさい。」
『はっ!』
部下はそう答えると、伝令を伝えに走った。
(何者かは知らないけれど、この私に楯突くとは良い度胸じゃない。ただ逃げていれば良いものを、それならば徹底的に潰してあげるわ。)
ヴィネは不吉な笑みを浮かべながら、歯向かってきた愚か者の末路を思い浮かべていた。
─凌馬─
「そろそろミウたちのもとに戻りたいし、終わらせるか。」
「まっ、待ってくれ! 俺も本当はこんなことしたくなかったんだ。上から命令されて仕方なく、本当だ、命だけは助けてくれ。」
副長は、凌馬から後ずさるようにしてそう叫んでいた。
「そうかそうか。嫌々やらされていたんだな? それじゃあ避難民たちを殺すのは自分の意志ではなく、皇帝陛下のせいだと?」
「いっ、いやそういう訳じゃないが、命までは奪うつもりは本当はなかったんだ。」
ひきつった表情の副長。もし認めれば、先程の凌馬の言葉を証明してしまい何をされるかと言い繕おうとする。
凌馬はニコニコした顔を浮かべて副長へと近付く。
「そうなんだ。おまえも色々と大変だったんだな。」
「ははは・・・、そうなんだよ。参ったぜ。」
バキッ!
「ぎぃやあぁぁぁぁ!」
凌馬は問答無用で副長の足を蹴ると、その場で足を押さえながらのたうち回っていた。
「そんな戯れ言を聞いてもらえるとでも思っていたのか? てめえで吐いた言葉は飲み込めねえんだよ。しかも、部下たちの心配すらせずに己の自己保身だけしか考えない野郎が指揮官とは笑わせてくれる。」
凌馬は副長を掴み上げると、兵士たちが流されていった方へと向かっていく。
アメリーナたちも一体何をするつもりなのかと後を追うと、凌馬は瞬間移動の能力を使って散り散りになっていた兵士たちを一ヶ所にまとめていた。
『ううううう・・・・・・。』
『がはっ、ごほっ。』
皆苦しみながらも、命だけはとりとめていた。
「さて、このままにしておいてもいずれ回復してまた再びやって来るかもしれんし。ミウの前でお前たちを片付ける姿を見せるわけにもいかないしな?」
『ひぃぃぃぃ。』
皆が凌馬を恐れるようにひきつった顔をしていた。
「時間もないしさっさとやるか。ほいっ! ほいっ!────。」
バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ、バキ、ボキ───────────。
『いやだぁ。』
『やめて、助けてくれー!』
凌馬はただ淡々と兵士たちの足の骨を折り続けていった。
そんな悪魔の所業をアメリーナたちもひきつりながらも、その様子を見ていることしか出来なかった。
『ううううう・・・。』
「ふぅー!」
一時間もしない内に、全ての兵の足の骨を折り終えた凌馬は実に清々しく一仕事を終えたサラリーマンのような顔をしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます