第21話

「凌馬さん、私に稽古をつけてくれませんか?」

 そんなチェルシアの声から、朝の稽古が行われていた。

 チェルシアは己の力に限界を感じ、凌馬との戦いで更に上を目指せるのではないかとの思いで懇願していた。


「それでは行きますよ。」

 凌馬は日本刀を構えると、チェルシアに攻撃を仕掛けていく。

 あくまでも手加減してのそれだが、チェルシアにとってはそれすらも受けきることは容易ではなかった。


「くっ。」

 凌馬に押されていたチェルシアは、反撃に出ることにした。

 ガンガン!

「なかなか筋が良いですね。剣筋も基本に忠実ですし、どなたかに教わったのですか?」

 凌馬はそう言いながらも、軽くチェルシアの剣を受け流していた。


「ええ、ギルドで高ランクの元冒険者の方に教わりました。」

 チェルシアはそう答えた。

「なるほど、それで。ですが、確かに綺麗な戦いですが、実戦ではそれだけでは勝つことは難しいですね。」


 凌馬はスピードを早めると、チェルシアの剣を弾き飛ばす。

「対人戦、魔物との戦いでもそうですが、戦いに於いては相手の隙をついたり、わざと隙を作り誘い受けをしたりと高度な戦闘になるほどそうした駆け引きが重要になってくることがあります。」

 凌馬のレクチャーが始まる。


「ですので、基本の動きをマスターした上でそうした技能を身に付ければ、今よりも強くなれます。チェルシアさんは基本は問題ないので、そうした方面を重点的に鍛えていきましょう。」

 凌馬の指導方針に、チェルシアは頷くと剣を拾い再び打ち合いになる。


 その様子を見ていた子供たちは、自分も鍛えてほしいと凌馬にお願いをしてくる。

 凌馬はマジックバッグから刃の潰れた剣を取り出すと、子供たちに配り始める。


「本当はみんなには危険なことはしてほしくはないんだけど、最低限自分の身を守れるくらいには強くなってほしい。言っておくが、修行は遊びではないから上に行くほど厳しくて付いていけなくなることもあると思う。だから、焦らずに自分のペースでやっていくこと。わかった?」

 凌馬の問いに了承する子供たち。


 こうして、凌馬の剣術道場のようなものが始まっていった。

 たまに、凌馬一人に子供たち全員が掛かっていく事もあったが、凌馬の動きに付いていけずにあしらわれていく。


 そんな、圧倒的な力に対して遊び感覚で慣れさせることによって、どんな状況でも驚かない様に鍛え上げていった。

 いつしか、そんな凌馬の事を師匠と呼ぶようになった子供たち。


 凌馬も悪い気はしなかったので、特に否定もしなくなりその呼び名は定着することとなった。

 そして、時が流れていった。


 あまり依頼を受けないと、冒険者としてペナルティが課せられる事もあるため、ローレットとチェルシアは簡単な依頼はないかギルドへと向かっていった。


 凌馬はいつも通り、子供たちに稽古をつけていた。

『師匠、よろしくお願いします。』

「おう、さあ来い!」


 そうして、いつも通りの一日が始まるはずだった。その声が響くまでは。

「凌馬さん、大変です! みんなもすぐに食堂に集まって!」

 冒険者ギルドに行っていたはずのローレットとチェルシアが戻ってくると、そんな叫び声をあげていた。


「一体どうしたんだ?」

 凌馬も思わず驚き、そんな言葉を返していた。

「魔物です。魔物の群れがこの街に近付いてきています。すぐに避難しないと!」

 チェルシアの言葉に、子供たちは動揺をし始めとりあえず一旦食堂にみんなを集めることにした。


「ローレット、チェルシア。一体何があったの?」

 ベネディアの問いに、ローレットたちが答える。

「ベネディア先生。この街に大規模な魔物の群れが近付いています。今朝冒険者ギルドがざわついていて変だと思っていたのですが、ギルド長よりその様に冒険者たちへ発表がありました。」


 そうはっきりと断言され、ベネディアも頭を抱えてしまう。

「到着予定時刻は分かりますか?」

 凌馬の質問にチェルシアが答える。

「はっきりとは分かりませんが、もうそんなに時間はないかと。」


(不味いな。馬車に子供たちを全員乗せたとしても逃げ切れるかどうか。いや、能力を使えば逃げることは容易いか。問題は・・・。)


「私たちどうなるの?」

「せっかく新しくなったのに、お家無くなっちゃうの?」

 子供たちが不安そうに呟くと、すすり泣く声が響いていた。


 ミウと一緒にいたフィリーアも、涙を浮かべていてミウが懸命に慰めていた。

 そんなミウは、凌馬の元にやって来ると体に抱きついてきて見上げながら懇願してくる。


「パパ、お願い。みんなを助けて。」

 ミウがそう言って来るのを聞いて、凌馬は頭を撫でながら答えた。

「もちろんだ。パパに任せておけ。」


 凌馬の答えを聞き笑顔になるミウ。

 ミウに懇願された凌馬にとって、選択肢など一つしかなかった。

 例え敵が神であろうが、蹴散らすのみ。全力を出すことは決定事項だった。


「皆さんは、一応避難の準備をしておいてください。俺はこれからギルドに向かって、情報を集めて対応します。もしもの時は俺がそれと分かるように合図を送りますので、魔導人形とゴーレムたちと一緒に馬車で避難を開始してください。」

「凌馬さん、いくらあなたでも今回は無茶です。群の数は、この街の防衛能力を遥かに越えています。一人では無駄死にするだけです。」


 ローレットが懸命に止めてくるが、凌馬はみんなに笑いかけると告げた。

「そうですね。どうやら今回は俺も本気にならざるを得ないようです。それに、ミウの居場所をそう簡単に無くすわけには行きませんからね。ローレットさん、チェルシアさん、ミウと子供たちを頼みます。」


「本気なのですか?」

「ええ、もちろん。」

 凌馬はローレットにそう答えると、全速力で冒険者ギルドへと向かっていった。


 凌馬は走りながら自らのステータスの確認をする。


無職からの脱出シーカー・アフター・ザ・トゥルースLV.3

 レベルアップにより新たな能力が解放されました。スキル『副業』。本業とは別に副業をセットすることが出来る。副業に付けた職業はスキルのみ使用可能で能力値は本業に依存する。

 副業のスキルの使用には、本業時の二倍の魔力が必要。その他、スキルによっては能力の制限があることもある。

 日付が変わると無職に戻ってしまう。


「タイムリーだな。これなら行けるか。本当はこの職業には就きたくなかったが、最早そんな事を言っている余裕はないしな。」

 凌馬は以前、男の子なら誰でも憧れる存在を試しになっていた。

 しかし、そのあまりの職業の説明に封印して二度と就くことはなかった。


 今再び、その封印を解くときが来てしまった。


勇者国の便利な奴隷

 バカな奴だ。ちょっとおだてたら、はした金で魔王に向かって行きやがったわ。これだから勇者召喚は止められぬ。

完全無欠もう!最強! ○主人公補正都合の良い現実 ○聖結界進入禁止!

○能力値

 力    9999

 魔力   9999

 素早さ  9999

 生命力  9999

 魔法抵抗 9999


(相変わらずなんて説明だ。夢見る子供が見たら、トラウマで塞ぎ込むレベルだぞ!)


 そして、同時にスキル『副業』を使い職業をセットする。


罠士おのれ!孔明!

 待て、これは孔明の罠だ!

落とし穴お前はもう俺の虜さ ○火計燃えたろ? ○流言の計待て、話せば分かる


 これで、どれだけの魔物を殲滅できるかだな。

 凌馬は、一人で効率良く倒すために職業を選択すると、やがて冒険者ギルドへとたどり着いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る