第11話
雄叫びを聞いた凌馬は、直ぐ様臨戦態勢にはいる。
そして、森からでてきたのは人型の鬼のような生き物だった。
「おいおい、冒険序盤はゴブリンやスライム辺りが相場って決まってるだろうが。いきなりオーガって酷くない?」
凌馬はそう言いながら、馬車から降りるとスリングショットでオーガの頭を狙い撃つ。
「ぐうおおおお!」
「やっべ! なんか余計に怒らせちまっただけだったか。」
凌馬はスリングショットでは効果が薄いと分かると、腰に差していたSIG SAUER P226を抜きオーガの頭部へと照準を定める。
パンパンパン!
乾いた銃声とともに、オーガの顔面に銃弾が撃ち込まれる。
「ごおお・・・。」
バターン!
オーガは後ろへと倒れると、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「流石は現代兵器だな。ファンタジー世界では反則級の威力だな。」
凌馬は念のためSIG SAUER P226を構えたまま、オーガが死んでいるのを確認する。
安全を確認した凌馬は、横転している馬車の方へと向かう。
すると中から動物の鳴き声が聞こえてきた。
「みゅーみゅー。」
「なんだ? 動物か何かか? おい、今助けるからな!」
凌馬は荷台の中に入ると、かごの中に閉じ込められている白くて小さな生き物を発見する。
というかドラゴンの子どもだった。
「なんだよこれは! こんなかわいい子を閉じ込めるなんて、人間のくずだな。」
凌馬はかごを持ち上げると、中にいるドラゴンの子どもに話しかける。
「待っていろよ。すぐにそこから出してやるからな。」
「みゅーみゅー!」
子ドラゴンが嬉しそうに鳴くのを見て、表情を崩す凌馬。
『無職からの脱出』
ジョブ
・
私たちに開けられない鍵など存在しません。いつかあなたの心の扉の鍵を開けたいな!
○ピッキング ○
ジョブチェンジした凌馬は、子ドラゴンが入っているかごの鍵を『ピッキング』を発動。
無事かごの扉を開けた凌馬は、子ドラゴンを外へと出す。
「みゅー!」
子ドラゴンは凌馬の体に飛び付くと、嬉しそうに鳴いて顔を舐めてきた。
「ははは、くすぐったいよ。」
凌馬はそう言って子ドラゴンを掴むと、正面を向けて話し掛ける。
「お前はどこから来たんだ? 名前とかあるのかな?」
「みゅー?」
凌馬の言葉に首をかしげる子ドラゴン。
「兎に角、名前がないと不便だな。そうだな、お前の名前は『ミウ』だ。かわいい名前だろ?」
この男、ネーミングセンスが壊滅的だった。
「みゅー。」
ミウは、凌馬の名前に満足しているのかそう鳴くと凌馬へと甘え始める。
「そうか。気に入ったか。おお、ミウ。お前はなんてかわいい子なんだ。」
凌馬は、ミウに頬擦りしながらそう話し掛ける。
《まあ、本人が納得しているのならばしょうがない。》
ミウと戯れていた凌馬は、首につけられた首輪が気になる。
ピッキングするにも鍵穴がなく、凌馬はもうひとつのスキルを使ってみる。
『
光輝くと、ミウの首から首輪が外れる。
すると、そこには美しい純白の髪をセミロング程に伸ばした一人の幼い少女が白いワンピースを着て立っていた。
「えっ───!」
凌馬の思考が停止する。
「みゅ?」
少女はそう言うと、凌馬へと抱きついてくる。
「もしかして、ミウなのか?」
少女は凌馬を見上げると頷いてきた。
(おう、流石はファンタジー! しかし、日本だったら確実に通報される事案だぞ。)
凌馬はそう思いながらも、ミウの頭を撫でる。
「ねえ、ミウ。君のお家は何処なんだい?」
凌馬の問いに首を振るミウ。
「う~ん、困ったな。君のパパとママもきっと探しているだろうし・・・。」
「パパ?」
そう言うと、ミウが首をかしげながら凌馬を見上げて抱き付いてきた。
(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)
凌馬はパパにジョブチェンジした。
(なにこの可愛い子? そうか! 俺はこの子と出逢うためだけにこの世界に転移してきたんだ!)
ただのバカであった。
しばらく夢の世界にトリップしていた凌馬は、現実に戻ってくると色々と確認することにした。
ミウは、どうやら何処からか誘拐をされて来たらしい。変化スキルで竜から人間に変化することが出来ること。人間形態なら人間の言葉も少しだが話せることを確認した。
ミウ
子ドラゴン
○能力値
人間形態 竜形態
力 20 500
魔力 500 1500
素早さ 50 1000
生命力 100 1000
魔法抵抗 1000 2000
○変化 ○ドラゴンブレス(竜形態のみ)
凌馬は馬車の中と周囲を捜索して、他に誰かいないか捜すと森の奥では数人の遺体が見つかった。
恐らくあのオーガに殺られたのだろうが、ミウを誘拐してきた犯人と思われる奴等なので、特になんの感情も湧かなかった。
馬車から使えそうなものをいくつか拝借すると、ミウを自分の馬車に乗せて再び移動を始める。
「ミウはお菓子とか食べられるのかな?」
「お菓子?」
そう聞き返してきたので、凌馬はチョコレートを一口大に分けてミウに渡す。
しばらくチョコレートを見つめていたミウに、「美味しいから食べてごらん。」と頭を撫でると口の中に入れる。
「んー!」
ミウはあまりの美味しさに興奮した様子で、凌馬におねだりしてくる。
「もっとちょうだい!」
凌馬はしょうがないなあと言うと、ミウにチョコレートを一枚渡す。
「あんまり食べると太っちゃうからな。今日はそれでおしまいだよ。ゆっくり味わうんだよ。」
凌馬にそう言われたミウは、コクコクと頷くと夢中でチョコレートを食べ始める。
凌馬は、隣にミウを乗せて馬車を操縦するこの時間が、何よりも幸せな時間であると感じていた。
(子どもを持つ親の気持ちってこんなものなんだな。)
凌馬は結婚よりも先に、親の気分を味わっていた。
やがて、今日の野営ポイントにちょうど良いところを見つけたので、馬車を止めるとミウを馬車から下ろす。
「パパ?」
「うん、今日はここでお泊まりするからね。馬の世話をしたらすぐにご飯の用意をするから、ミウは近くで休んでいなさい。」
凌馬がそうミウに言うと、「私も手伝う。」と言ってきた。
「ミウはいい子だね。それじゃあ一緒にやろうか?」
すでに親バカ全開の凌馬は、親子仲良く野営の支度をはじめた。
「さて、今日はミウがいるからご馳走を用意するぞ! 今日のメニューはハンバーグだ!」
「ハンバーグ?」
ミウがそう聞いてくる。
「とっても美味しいから楽しみに待ってな。」
ミウの頭を撫でると、凌馬は料理に取りかかる。
そして、馬車から用意したテーブルに皿を並べて料理を盛り付けていく。
☆今日の献立
・ハンバーグ
・コーンスープ
・サラダ
会心のできに満足の凌馬は、ミウと隣並んで椅子に座ると夕食にする。
「ミウ、ご飯を食べるときは、こう手を合わせて『いただきます』って言うんだよ。」
「いただきます。」
ミウは凌馬の真似をしてそう言うと、凌馬はミウの頭を撫でて「さあ食べようか」と言って夕食にした。
「パパ美味しい!」
「そうか。良かった、しっかり食ベて大きくなるんだよ。」
ミウは頷いて答えると、ご飯を夢中で食べ始める。
(ああ、ずっとこのまま時間が止まればいいのに。)
ほほえましく見守る凌馬は、そんなことをしみじみと感じていた。
そして、就寝タイム。
凌馬は寝床を用意すると、ミウと一緒の布団で眠ることにする。
「さ、もう遅いから一緒に寝ような。寝る子は育つって言うから、しっかりと寝るのも重要な事なんだぞ。じゃあ、『おやすみなさい』。」
「うん。パパ、おやすみなさい。」
そうして、ミウの添い寝をして眠りにつくのを見守る。ほどなくして、寝息が聞こえてきたのを確認すると、しばらくの間ミウの寝顔を堪能していた。
「おやすみミウ。いい夢を見られますように。」
そう言って頭を撫でると、凌馬も眠りへと入っていく。
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