コインランドリー
駅が近いアパートには ベランダがなかった
室内のキッチンの 流し台の横に
無理矢理に自分の洗濯機を置いてみても
排水が どう見ても不備だった
何とか設置して 洗うまでは出来た
それでも 干す場所がなくて
駅より遠い 商店街の向こう側にある
コインランドリーへ
大きな籠を持って行った
二人で 籠の持ち手の一つずつを持って
歌を歌いながら
夜風に吹かれながら
何故だか 楽しくて仕方がなかった
洗濯物を乾燥機に入れたら
ぼんやり待つなんてことはしない
すぐに商店街へ移動して お弁当を買ったり
お米を買って 家で ご飯を炊いたり
レンタルの店で映画のビデオを借りて
古いフランス映画を片っ端から観て
救いのない結末に衝撃を受けては
リアルの幸せに気づいて
愛しさに震えた
彼には立派な家があって
大切に育てられた長男で
私立大学に通っていて 友達が大勢いて
若くて 未来が沢山あって
音楽を志していた
才能があって 本当に素敵だった
私はただ 彼に出会って恋しただけ
それだけの通りすがり
どうして
若さは あんなにも無知で
純粋で 残酷なの
触れ合う度に 傷つき 傷つけ
私にはきっと棘が生えていたね
離れることでしか
守れないものなんて
あったのかどうか
VHSが世界から消えたみたいに
あのコインランドリーは
多分もう閉店したか 無くなったか
だけど心に棲息する想い出は
手元にあるのに観ることができない
幾つものビデオテープのように
うんざりするほどリアルに
ここにあるよ
どうすることも出来ないのに
大切に 大切に
綺麗なままで
断片 青い向日葵 @harumatukyukon
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