東京
桜の花粉のアレルギーだから
花見には来たくないと言って 彼は
色のない真冬の公園に 私を呼んだ
大群の鳩に囲まれながら
寄り添う恋人達を横目に
友達だった私達は
少し離れた位置に散って
彼は首から下げた一眼レフで
私と風景の写真を撮った
人物を写したのは初めてだと
こだわりの芸術家みたいな言い方
自宅で現像したモノクロの写真は
なかなか素敵だったけれど
それから しばらくして
私は地方で自分ができる仕事の
ほぼ全てをやり切った気持ちで
何もかもリセットしたくて
住処を変えた
彼と もう一人先輩が
駅のホームまで見送ってくれた
夜行の電車に乗り
大して遠くはない東京
すぐに着いた
友達とルームシェアをして
彼女達の大学院が終わってからは
ひとり暮らし
自由で 刺激的で 楽しかった
バイト仲間の江戸っ子に
東京の何が楽しいんですか?と
真顔で聞かれたら
地方から来るとわかるよと
笑顔を返し 話が弾んだ
数年の間に いろいろあったけれど
明日死んでもいいと思うくらいに
楽しかった毎日は全部
かけがえのない青春
いつか駅で見送ってくれた人が
一緒に未来を見ないかと
絶望の淵で泣いていた私に
手を差し伸べてくれたから
夢を捨てて
生きることを選んだ
地方に戻る前日
何度も別れた年下の恋人と
思い出の染みついた部屋で
ジギー・スターダストを聴いた
Five Yearsという曲は
私の5年間と重なって
上を向いて寝ていたら
涙が耳に入るのだと知った
優しかったその人は
きりがないのにずっと
涙を拭いてくれた
ありがとう
大好きだった
恋人と東京
そんな甘くて苦い思い出が全部
90年代のロックに絡み合っている
大好きだけど 時々痛い
そんな時代の 私を構成する音楽
姿形は変わっても 今もずっと
脈々と続いてるROCK'N'ROLL
あの頃の尖ってた娘がロックなら
今の私は多分ロールのほう
また1人 これからも続いてゆく
そしてロールは楽しい
幸せを怖がらない強さと
分かち合うやさしさ
ドラムとベースのように
私を支えてくれる
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