第29話
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薄暗い廊下を通る。義明とクリアハード。
「あの、クリアハードさん。アリ―の状態って……アマンダさんは魔力切れっていってましたけど……」
「はい、アリ―様の魔力は、それはもうスッカラカン。なんでここまで空なのか……」
やっぱりと、義明は視線を落とす。アマンダは問題ないような雰囲気で言っていたが、やはり普通じゃないんだ。
「……それって……やっぱり重症ってことですよね」
先導するクリアハードに尋ねる。不安の色が隠せない。もし重症だったら、起き上がるのも辛い状態だったらどうしようと、不安な気持ちでいっぱいになる。
そんな不安を汲み取ったのか、クリアハードはなかなか答えない。気を使われているのだろうか。だが、この沈黙は義明にとって拷問にちかかった。沈黙が続けば、続くほど義明の不安が膨れていく。
何か、何か言ってほしい。
「ヨシアキ様」
唐突に声をかかれられ、肩が跳ねる。
「それはご自分の目でお確かめられたほうがよろしいと思いますよ」
声のトーンが真剣そのものであった。別の感情を押し殺すように、必死耐えてるようだった。
義明はこれで察した。アリーの寝込んでいる姿が目に浮かんだ。
それから会話なかった。何か話す気にはなれなかった。カツンカツンと足音がタイマーのような気がして、歩けばあるくほど身が萎縮する思いだった。
「こちらです」
沈黙を遮断するように、クリアハードさんが短く答える。
クリアハードはドアの正面から少しズレ、身体を義明の方に向ける。
自分で開けろと、そういうことなのか。
義明は扉に手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。
扉を開け、目の前に広がった光景に義明は言葉を失った。
「ああ、クリアハードさん。ありがとうございます。着替えはそちらに置いていただけま……す……」
そこには着替途中のアリーがいた。
「……な、な、な」
「よ、よ、よ、よ、よ!」
お互い固まって、変な顔して見つめ合っている。
そしてお互いとても変な顔をしていた。
「あらあら、お着替え中だったとは。ずいぶんといいタイミングでしたねぇ。ヨシアキ様。しっかりと目に焼き付けないといけませんよぉ」
白々しくケラケラと笑いながらクリアハードは言った。
お互い、確信犯のクリアハードをキッと睨みつける。だが、彼女はどこ吹く風。睨みつけた顔もすでに
「あらあらすぐに出ていかなかったり、大声をあげないところをみると、お二人はすでに裸見せても問題ない間柄なのですね」
羨ましいわぁっとため息混じりで言われて二人はハッと気づいた。
「ご、ごめん! アリ―!」
「あ、あ、あ、あ、あ……うん! と、とりあえず部屋を出てくれたら嬉しいかな!」
「はい! でます! 失礼しました!」
「あらあらあらあらあら、ヨシアキ様。お顔真っ赤ですよ。いいでんすか? もっと見とかなくて」
「うるさいですよ! クリアハードさん、あなたアリ―が着替え中だってしってたでしょ! てかなんだったんすか! さっき部屋を入る前はぜんっぜんそんな雰囲気だしてなかったでしょう! あの重い空気感でこれはないわ!」
「あらあらあらあらあら」
クリアハードは嬉しそうに身体を左右に揺らしながら、けらけらと話す。まるで、義明の反応が思い通りの反応であったことを、喜んでいるみたいだった。
「も、もういいよ。ヨシアキ。その……おまたせ」
照れたような声で義明を呼ぶ。
「う、うん……失礼します」
義明も照れる。さっきのあったのだ。妙に、いやかなり照れくさく、顔をまともに見れない。
「まるで、初めて異性の部屋に訪れる彼氏とその彼女みたいですね」
「「クリアハードさん!」」
義明とアリーは同時にクリアハードに叫んだ。
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