Long December Days:55
矢をかわした陽奈は、MPFの腕を、正方形の金属板目掛けて蹴る。
眩い光と大きな音と共に、蹴り飛ばした腕が発電する。正方形の金属板が電流を浴び、デタラメに撃ち出してくる矢の雨をかいくぐりながら、陽奈はマイクロブラックホール拳銃の元に向かう。少しずつ撃ち出してくる矢の本数が減り、正方形の輪郭が崩れ、元の粘液の塊に戻ったところで、陽奈は拳銃を持つ。落ち着いて両手で構え、照準を合わせ、
「終わりよ……!」
引き金を引く。命中して、粘液は虚空へと消えた。
「さて、まだ終わりじゃないのよね……」
金属板から射出された無数の矢がとろけ、粘液となり、蠢きながら一つに集まろうとする。一つになったところを撃つべく、陽奈は慎重に待ち構える。
射出機の残弾は一発。マイクロブラックホール形成弾はかなり大型の弾薬のため、拳銃サイズでは二発装填するのがせいぜいだった。
「とりあえずこれでなら対処できそうだけど、粘液になってからじゃないとキリがない、か」
ブラックホールの大きさは半径1mほど。それ以上のものもそれ以下のものも形成弾では作り出せない。それ以外では、暴走の危険が発生してしまうのだ。粘液は、形を変えると膨張する。そして、これまでのことから考えると、形を変えた後に分離すると、粘液本体の状態の体積も増えたままとなる。
「熱がダメ、切ったり叩いたりもダメ、毒もそこまで効果なし、凍らせたところで砕いたら逆効果……」
日本中でこの粘液が発生したらしいことを考えると、地球上全ての土地で湧く可能性が捨てきれない。「屋内全てに発生する」という情報が正しければ、月や火星でも発生する可能性がある。
「逃げ場はなし、か……」
ゆっくりと集まった粘液たちは、2mほどの間隔を開けて、碁石を三つ並べたように自らの居場所を定めると、脈動を始めた。
「やっぱり同じ手は二度食わないってことよね……参ったなぁマイクロブラックホールが効かなくなったら正真正銘人間たちは絶滅よ?」
青ざめて震える自らを茶化すように、努めて明るい声を出した。
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