Long December Days:54

ほんのわずかな時間だけ粘液から目を離し、金庫に月影を突き刺してこじ開けた丁度その時、陽奈は背後から迫る気配を感じてみをよじった。鼻先と、左肩の近くを矢のようなものがかすめる。壁に突き刺さったものを見ると、確かに矢であった。壁に深々と突き刺さっている。間違いなく粘液から射出されたものである。

「遅かったか……!」

振り向いて、月影を握り直す。粘液はまたもや体積を大きく膨らませて、薄く大きな正方形の金属板に変化した。一辺が天井に届くほどの長さである。一面に規則正しく穴が開いている。その金属板が小さくたわんだ次の瞬間、全ての穴から陽奈めがけて一斉に矢が射出された。陽奈は飛び込み前転によって回避するも、第二射が襲い掛かる。やはり辛くも回避するが、先ほどよりも矢の速度が上がっている。「このままでは自分はハチの巣にされる」という恐怖が、陽奈を包む。

「どうする……」

いつでも決着をつけられると油断しているようで、陽奈に狙いを定めたまま、金属板は全く動かない。「変なところで人間らしい」と苦笑したいところだが、そうもいかない。

玄関にソフィアの持ってきたグレネードランチャーがあるが、あくまで害虫駆除目的だろうから威力は期待できない上に、さきほどの毒ガスのせいで動かない可能性があるし、そもそも取りに行く間に撃たれてしまうだろう。

MPFに搭載されている残りの武装についても状況は大して変わらない。無残な姿でMPFは座り込んでいる。腕と脚については、胴体から分離してしまっている。放電用のバッテリーを搭載している部分で、腕の破損でそのまま機体の停止にもつながりかねない部分なので、簡単に分離するようにできているから、当然のことと言えば当然のことなのだが。

「……あれ?」

バッテリー部分が壊れた場合、液漏れが起こるはずの部位である。空気中に消えていくものではあるが、それほどの時間が経ったわけではない。そして分離した場合、強い振動を与えると放電するような細工がなされている。奥の手として全ての自律型MPFに搭載されている機能だ。

陽奈は、跳躍した。

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