Long December Days:41

陽奈はソフィアに別れを告げ、家路についていた。足取りは軽く、歩幅は広い。

誕生日プレゼントは既に決まっていた。手編みの防寒具である。天然繊維の物は手が届かなかったが、人工繊維でほぼ天然繊維と同じ手触りの一級品を手に入れた。正規品として流通している手編み技術を網羅したソフトウェアのインストールも済んでいるから、難易度は関係ない。思った通りのものを、自分だけで作ることができる。昔は不便だったのだろうな、と陽奈は思いを馳せる。技術や経験は今や金さえあれば手に入る。

「でも、それに馴染むためにある程度の時間がかかる。それに……」

それに、自分の体は人間の物なのだから標準的な義体との差異を微調整し続けなければいけない。軽い手仕事程度なら多少の違和感はあっても問題なく作業することはできるが、武術となるとそうはいかない。標準型の義体にも搭載されている危機対応の緊急回避は、人体には不可能な動きだ。それに合わせた武術が組み込まれたソフトウェアは、当然陽奈には無用の長物となる。

「私みたいに人間の体のままで電脳のソフトウェアを使う人って少数派だからなぁ……」

陽奈はもどかしさを感じていた。利き腕を義体にするだけでもできることは一気に広がる。料理にしても武器の手入れにしても、電脳の操作にしても今一つ進歩が遅い。気晴らしだの当番制だのと言いながら陽奈の分までこなしてしまう、世話焼きでお節介な文成がいない一人の生活の不便さが、ほろ苦く感じられる。

「よし、早く帰っていっぱい作っちゃおう。ブンセーの分まで作れれば、帰ってきたときにびっくりするだろうし」

端末に登録した手編み防寒具のデザインをあれこれ見比べて、その作り方を保存してはソフトウェアを動かして実際に陽奈だけで作れるかどうかを確かめながら、早歩きで陽奈は帰宅する。帰ったら暖房をつけなければ。上着を着こんだままで編み物をすることなどできないのだから。

……そう、一人が寂しいわけではない。文成が恋しいわけでもない。まだ、たったの二日しか経っていないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る