Long December Days:22

――ソフィアが陽奈の手を握ってすぐに、陽奈の視界にノイズが入る。次の瞬間、

「これで、どう?あなたの意識が残ったまま、私の思いのままにあなたの体を動かせるようになったはずだけど」

という言葉が、陽奈の口から出た。ソフィアがにっこりと陽奈に微笑みかける。手を通して陽奈の電脳をハッキングしたのだ。

「すごい……これがソフィアさんのハッキング術……!」

陽奈がそう言おうとするが、陽奈の意のままに口は動かない。自然と陽奈の手が動き、唇に人差し指を当てて、「喋らないように」というジェスチャーを行う。ソフィアが今度はソフィア自身の口を使って、陽奈に言う。

「あなたの電脳を全て思い通りに動かせるわけじゃないから、体を動かさないように気をつけて。怪しまれたらそれで商談は終わりになっちゃうもの。あなたの心の声も今なら自由に聞けるから思うだけにしておいて」

陽奈が「分かりました」と声に出さずに言うと、ソフィアは頷いた。

「そう、そのやり方でお願いするわね。それじゃあ、義体のメンテナンスユニットに入るわね。疑似空間に接続するから」


その疑似空間は、いかにも会社にあるような会議室と言った風情の場所だった。余り広くはない部屋の真ん中に、机と四人分の椅子。

『あれ?二人来るんですか?』

陽奈の疑問に、ソフィアが答える。

『ううん、今日の相手は一人だけ。疑似空間のプリセットで一番小さい場所はここなのよ』

『なるほど……』

疑似空間は電脳を持っていれば誰でも使える、多人数同時通信機能とVR技術を兼ね備えたコミュニケーションツールだ。本来は百人規模で用いるものであり、陽奈が利用したことがあるのもそう言った大きなホールが多いため、このような小さな疑似空間を使うのは初めてだった。

『さて、来るわよ……』

誰かがアクセスしてきたことを通知する音が流れ、白人の老紳士が現れる。長い白髪を一本に束ね、手にはステッキが握られている。

「おや、貴君は色々な義体を持っているが、今日は可愛らしいお嬢さんか」

ロシア語でそう言われ、陽奈は電脳に搭載されている翻訳システムが翻訳するのを待ったが、その間に陽奈の口からソフィアの手によってロシア語が出る。

「こんにちは、コールウィーカーさん。今日のおじさまはロシア語が使いたいのかしら?」

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