Long December Days:12

サーモグラフィに反応なし、超音波でも反応なし。嗅覚センサーを最大感度にして――NEに搭載できる嗅覚センサーを最大感度で動かした場合には霊的存在の一部さえも感知することができることが分かっている――も反応なし。ソフィアが搭載している全てのセンサーを総動員しても、そこにあるのは文成が入る前の部屋――病室ほど近くの仮眠室の一室――だった。同様にソフィア自身の電脳がハッキングされている可能性を探るが、ハッキングされている可能性は限りなくゼロに近いという結果が出た。しかし、この部屋の実情は、侵入者が何らかの手段によってもたらしたことに違いない。

文成も、侵入者も確かに実在する人物のはずなのに、実在する全てを知覚できるはずの自分の知覚の外にいることは、ソフィアにとってとても腹立たしいことであった。

「こうなったら……!」

文成の電脳と同型の物の蓄えを使うかどうかをソフィアは考えていた。文成がまだ智絵だった時に偶然、未来予知のできる電脳を発明することに成功していた。その電脳を五つ並列で用いれば最大で約一年後までの未来を分刻みで正確に予測することができる。何度も使った手段なので、やり方は分かっていた。

「駄目よ、ソフィー。アレに頼るのは最後の手段」

予測範囲は3分後から約一年後まで。ソフィアの情報処理能力を持ってすれば日本全ての一年後までを把握することができる。しかし、大きな欠陥があった。のだ。未来を予測した結果一年後まで文成が現れないということになりかねない。

この前と同じように多量の情報を流しこんで電脳をパンクさせる作戦をまたしようかとも思ったが、文成の部屋は病室が近い。患者にも害が及ぶ可能性が高いので、使うわけにはいかない。

「でも、未来視しかもう頼れないわね……」

一つか二つに使用を抑えておけば、未来が確定することはない。同じ電脳のはずなのに文成が使った時と比べると正確性は落ちるものの、一つだけでも一時間先を読み取ることができる。試してみれば何か分かるだろうとソフィアは考えた。

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