白雪文成と妖刀:6

陽奈が目を覚ましたのは、一面の銀世界であった。‬

「‪ここは?‬」

背後に立っていた老婆がこたえる。

「‪愚かな人の子よ。こは月影が神域よ‬」

「‪しんいき?」‬

「‪呵々、何も知らぬのよな。我が人に振るわるる折、その者が我を振るに足るかを見定める場じゃよ‬」

「‪私は月影に選ばれたってことですか?‬」

「‪選ばれる資格を得た、というところじゃの。どうじゃ?試みるか?‬」

「‪はい。そのために来ました」

「‪良かろう。お主への試練は簡単じゃ。ここにいる我ら全てを殺して見せよ。さすれば主の勝ちじゃ。我ら月影はお主の剣となろう」

「‪わかりました‬」

「‪武器は要るか?‬」

「‪要りません。素手でいきます‬」

「‪よろしい。では一人目、前へ」

‪一人目の月影と向かい合う。礼をして、掌底を決める。文成には通用しない、コニーの記憶の中の発勁で誰であってもまず間違いなく通用する。事実、簡単に内蔵の破裂する音と骨の砕ける音を出して、一人目は崩れ落ちた。

‬「よろしい。一人目」

‪雪に溶けていく月影だったもの。‬

‪「これが、人殺し?‬」

‪「なんじゃ、殺めるのは初めてか?」‬

‪その声すらハルナの耳には届かなかった。怖い。恐ろしい。私の手が、私の体が。一人の人間を確かに殺した。文成は大したことないと言っていた。今の世界で自分の野望を自分で叶えるのであればできなければならないとも言っていた。多くの人間とNEをその手で殺したとも言っていた。ソフィアにも確認した。全て真実であった。事実、今日にしても容易く何人もの月影を殺して逃げて来た。文成にはできる。30年前からずっとそうだったと言っていた。私にはできない。‬

‪「修羅となるのじゃ、人間よ。さもなくば死ぬぞ?‬」

「‪月影さん。私にはできません」

「‪修羅になれぬと申すか」

‪「いいえ。人殺しをして修羅になることはできません」

‪「人殺しでなくば修羅にはなれぬ」

‪「月影さん。あなたは月の光です。月の光は殺めることを赦す光だソフィアさんから伺いました。私は、あなたをもって、人を殺す月の光を持って、その剣を振るって、人を殺す御業を振るって、人を赦す光となりたいです。だめですか。」

‪大きな声で笑う月影の老婆。

「よかろう。その言葉を待っておったのじゃ。何年ぶりかのう、人に振るわれる時は」‬

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