白雪文成と妖刀:5

文成が目を覚ましたのは、一面の銀世界の中であった。

「ここは……どこだ?」

一人、呟いてみるも返事は帰ってこない。虚空にすわれるのみである。

「あの後、三人で向かおうとしたときに一番大きな刀持ちに襲われるのを未来視して、間に合わないと思いつつ二人を守ろうとして、切られたのか?」

だが、そうするとここはどこだ?視覚センサーはひとまず正常値であるし、聴覚嗅覚触覚センサーも同様だ。雪をひとつかみして口に含んでみても、やはり同様の結果。

「もしも切られてあの世に行ってしまっているのだとすると聞いていた情報と余りに違う。黒っぽい石の多い河原に辿り着くはず。それなのにここは一面の銀世界。ああ、満月が大きくて綺麗だ。しかし夜なのもおかしい。あの世に着くときは薄明の頃だと聞いている。今のような深夜に着いたなどという報告は見たことがない」

それに何よりも文成にとって非常に大きな問題がある。一番これが大きい。

「困ったことに未来視が全く使えない。僕に押し寄せてくる危険くらいは探知できるものだが、それすらもできない。目を奪われた気分だ。でも、こうしていくらか口に出して少しは落ち着いた。状況をもう少し整理しよう」

まずは感覚を奪取ジャックされた履歴を確認する。数分前に一件。五感すべてを盗まれている。つまり、今自分がどこにいるかは僕自身で分かる手段が一切ないということだ。しかし、幸いなことに衛星通信回線はジャックされていない。ソフィアに救難信号を送って、改めて自分の姿を確かめる。

「今の僕は文成の姿ではなく智絵の姿になっている。その方がしっくりきているのでなんとも言えない。更に今僕は紋付き袴を身に着けている。ということは、だ。

突如、文成の頭の中に声が響いた。

「欲深き愚かなる人間よ。ここなるは神器月影が試練なるぞ。貴様が勝利は容易い。花嫁たちの中に一人本物がいる。見抜き、そして殺めるがいい。だが、易々とことは進まぬ。貴様が勝利を妨げるあまたの偽花嫁は殺めてはならぬ。貴様は氷のごとき冷たさと雪のごとき激しさと月のごとき優しさとを持たねばならぬ。故に月影。まさに月光よ。勇猛さ、武勲のみでは如何様にもならぬこの試練、超えて見せるがよい」

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