白雪文成と妖刀:3
†
「助けて!」
島に降りた二人の元を訪れたのは、白無垢を着て、手に何も持たない10代前半の黒髪の少女だった。
「助けて!逃げて!」
「助けてと言われても誰からどう助けてなのかが分からないと僕にはなんともできない。そして逃げての方だが、それもいま無理になった。僕は君とハルの二人を守らなければならない」
白無垢の少女を追うように、20代ほどの同じく白無垢の美女が刀を持って二人に迫る。槍で迎撃する文成。一撃で喉を突き美女を倒す。
「ダメだ、多分これは何人殺してもキリがない」
視界の隅から二人、三人と白無垢の美女がこちらに迫ってくる。悪夢のような光景にうんざりしたように陽奈が言う。
「逃げる?」
「とりあえずそれしかないな。この無人島には捨てられた大きな洋館があるという話だ。そこに逃げよう」
そう答えた文成が少女を抱き抱え、槍を陽奈に持たせ、二人は走る。その間にも少女は「助けて」と「逃げて」を繰り返していた。
†
「兎に角、まずは話をする必要がある」
洋館まで逃げ切り、ドアや窓を塞ぎ、いつでも逃げられるように退路を確保した後で、文成が言った。
「そう、君は妖刀と言われる月影の一人だね?」
返事の代わりに頷く少女。
「『助けて』と『逃げて』の他に言葉を出すことはできるかい」
首を横に振る月影。
「なるほど。話せる二つの言葉は暴走した後で手に入れた言葉だね」
頷く月影。
「自我を手に入れたのもつい先日のことだと思うけれど、他の暴走している月影は言葉を持っていないね」
やはり頷く月影。
「君の他にも、武器を捨てた個体、自我を得た個体はいると思うかい」
この質問には首を横に振る。
「やはりそうか。ハル、この事件、思った以上に厄介なものになるかもしれない。月影を入手するのは諦める方向で話を進めるべきだろう」
「なぜ?」
「聞いた話に過ぎないのだが、暴走した妖刀などの付喪神とかつて呼ばれた存在が、自我を得る時にはいくつかのパターンがある。一番救いのあるパターンが、暴走した際に現れる怪物が、一体だけでかつそれが自我を得ている状態。逆に一番救いのない、簡潔に言うと危険なパターンが、何体も暴走した個体がいるのに、自我を得たのが一体だけのパターン。物にかかる負荷が全然違うのだそうだ。後者の場合、多くは自壊してしまう」
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