第百三十一章 大 臣

 第一回の執政会議は、ほどなく五月十日に開かれた。進行役は私が務める。

「これより第一回の執政会議を行います。景虎さまからご挨拶を申しあげます」


「本日は遠路から集合してくれてご苦労であった。皆におかれては、われの要望に応えて、執政の一員として就任いただき礼を申しあげる。われの目標はただ一つ『天下布武』じゃ。みなの智恵と力を結集し、一丸となって邁進してまいろうぞ」


「はっ!はぁ」と一同こえを揃えて平伏した。


「ご存知と思いますが、執政となられた方々を改めてご紹介いたします。直江 実綱どの、本庄 実乃どの、長尾 景信どの、斉藤 朝信どの、真田 幸隆どの、それがし永倉 新一と申します」


「さて職名と職務は景虎さまと相談いたしまして、大臣という名称を使用します。律令時代から使われてきた由緒ある名前でございます。王政復古と誤解をまねく恐れは想定内と言っておきましょう」


「では担当する職名を景虎さまから発表いたします」


「直江 実綱どの、そなたを総務大臣 兼 農林水産大臣に任命する。本庄 実乃どの、そなたを大蔵大臣 兼 通商産業大臣に任命する。長尾 景信どの、そなたを法務大臣に任命し、ならびに裁判所を管轄する。斉藤 朝信どの、そなたを建設大臣に任命する」


「真田 幸隆どの、そなたを参謀長に任命する。永倉どの、そなたを補弼ほひつ 兼 技術研究室長に任命する。この両名はわが直属の補佐官といたす」


「わしは両名を今後とも軍師どの、永倉先生と呼称する。そなたらも呼び慣れておるなら使ってかまわぬぞ。本日から少人数ながら執行体制が定まった。みなの奮闘・努力を期待しておるぞ。職務について永倉先生からくわしく説明いたす」


 みな両手をついて平伏した。


「では担当する職務の内容を説明いたします。今のところ四人しか大臣がおりません。兼務する方が多いですが、かならず人材をみつけて分掌したいと思っています」


「直江どのは筆頭たる総務大臣として、他の大臣が所管する以外の全てを見てもらいたい。その上で収入の柱である農林水産大臣として、農業と林業ならびに漁業の育成と発展に意を尽くしていただきたい。自然を利用して資源をそだて収穫する分野を管轄とします」


「本庄どのは大蔵大臣として、税などの収入と公金の支出にかかわる総てを所管していただきます。実質は守護上杉氏の被官である大熊氏が実務を取りしきっております。監督と監査がおもな仕事となりましょう。いちど大熊氏と引き合わせますので、呼吸をあわせて執行していただきたい」


「なお新しい通貨を来年にでも発行する準備いたしております。すでに製造に取りかかっており、ただ今は十分な量を確保している段階でございます。事後承諾の形になりましたが、ご了承ねがいたい。これも大蔵省の管轄となります」


「そこで本庄どのには、もう一つの収入の柱である経済産業大臣を兼務していただきたい。越後の名産品として青苧いがいの特産品が目を出して来ております。新しい産業を育てあげ興隆させることが越後を富ませる源泉でございます。鉱物を採掘する事業も含まれます。ぜひ思う存分、腕をふるっていただきたい」


「長尾どのは法務大臣ならびに裁判に関する部門を所轄ねがいたい。法律をつくり我らが法にしたがうからこそ、領民も法を守ります。法が支配する正義の国をめざしたい。争いをみぜんに防ぐ手立てでもございます」


「裁判は二段階の制度を考えております。大部分の刑事や民事の案件は、法律に則って適正に判決を下せるものと思っています。しかし政治的な絡みや、どうしても承服しがたい事例が生ずる可能性があります。そうした場合、控訴して執政会議で評決する制度をつくっておきたいと考えております」


 いまの状況で三権分立など夢の話しだ。


「斉藤どのは建設大臣として、道路・河川・運輸にかんする事業を統括していただきたい。これらを整備してこそ大軍がすみやかに移動できます。人の往来や産物の移動が楽になって、結果として産業の発達が促進されます。人や産物をすみやかに移動できる手段を考えてほしい」


「真田どのは軍事・諜報の参謀長として、景虎さま直属の専門職として補佐していただきたい」


「それがしは景虎さまの直属のもと、政務全般にわたる意見具申と新技術開発の研究を受け持ちます。皆さまの担当するすべての部門に、相談に乗り助言いたします。何であれ、いつでも声をかけて頂ければ、喜んでご一緒に知恵をしぼります。叱咤激励する場面もあろうかと思いますが、景虎さまの夢を実現するためと、ご寛恕いただければと存じます」


「こうした全体の会合を月に二回ひらき、政務全般の意思決定機関として機能してゆきます。当面は組織体として体をなしていない面が多々あろうかと存じます。有能な人材の招致や部下の育成に意をそそぐ必要がございます」


「人材はいつでも、どこでも世の中にいる。ただ、我々が見つけられないだけだ。その思いで、身分や生まれにとらわれることなく、広く網をはっていただきたい」


「執政会議で意見がわかれ、結論がでない案件も出てこようかと存じます。議論が行き着いて諾否をとらざる場面も予想されます。賛成多数の意見を結論として採用することにいたします。同数の場合は景虎さまの裁断を仰ぎいたします」


「これまでの説明でご不審の点があればお答えいたします。急な話で飲み込めない所が多々あると思います。概略を説明しただけですので、現場に入って課題に直面することが多かろうと存じます。何時なりともご相談にのりますので、ご遠慮なく声をかけてくだされ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る