おマツリ少女とSCP!イフ!!第一話・おマツリ少女との出会い
2026年6月。
朝から小雨がぱらついていて、バイク通学の俺はライダースジャケットを随分と濡らしてしまった。
上瀬総合に入学して、二ヶ月。
なかなか個性的な高校と聞いていたが、単位制が物珍しいことや、生徒会長がやたら偉そうなこと以外は、至って普通の―――
「きゃああああ!!」
「わ! 美術科の野口がまた全裸オブジェ作って校庭に晒してるらしいぞ!」
「え、どういうこと?」
「絵とか彫刻が天才的に上手いくせに作品がぜんぶヌードなんだよ」
「それを入学からほぼ週一で作ってやがる」
「変態じゃん」
「しかも女子だぜ」
「見に行こう」
「話が早いぜ変態」
……普通の―――
「
「ああ、
「中学全国模試一位の神童ですよ。噂によると、もう東大の過去問も解けてしまっているらしいですが」
「なにしに高校入ったんだよ。教えることねーじゃねぇか」
「蘇我せんせー!! 大変です! 家持が進学クラスやめてスポーツ科に行くって言い出しましたァ!!」
「なんでだ!?」
「勉強飽きたって」
「一度でいいから言ってみてーわ! 至急三者面談だ! 親呼べ親ァ!」
……普通―――
「
「何その奇跡的にミスマッチな学校の怪談」
「私も知ってる。でもそれ、普通科の一年生の子らしいよ。小さくて可愛い感じなんだけど、誰とも何にも話さずに一日中
「真実知って余計に怖くなるやつやめろよー」
……。
「今年の文化祭、やっぱりミスは松田さんだと思うんだよね」
「綺麗だもんね。生徒会長もすごい美人だけど」
「でも知ってる? 松田さんの下の名前」
「なんだっけ」
「
「嘘」
「なんか家がそっち系? らしくて」
「実はもう跡継いでるらしいよ」
「じゃあ、あの清楚っぽい服の下って、墨的なアレが―――」
うむ、嘘だ。なにも普通ではない。
「はぁ……」
我知らず溜息を吐いていると、後ろから背をドン、と叩かれた。
「呼吸の浅さは大敵だぜ、
「
「ああ、悪かったよ。ここか? 叩こうか」
「それトドメになるから」
浅黒い顔で快活に笑う成長期の178㎝は、160手前で成長がおおよそ止まった俺には巨人にしか見えない。
「今日の分の授業終わったろ? バイトまでそこらで時間潰さねえか。セガに神撃の新しい筐体入ったんだろ? やりに行こうぜ」
「まぁ、いいが、でもあれ
「ハッ、舐めんなよ。こないだは久しぶり過ぎて酔っちまったが、もうコツは掴んだ。俺にできねえことなんてねえんだからな!」
それは、この
だが、そんな彼が、今は
俺がいた上瀬北中が、このスーパースターに、奇跡的な勝利を挙げた中三の夏。
それを境に、彼はチーム内外からバッシングされ、さらに鷹丸くんの徹底的に自分を追い込む練習量が祟り、15歳にしてオーバートレーニング症候群を発症するに至ってしまった。
「高校で環境が変われば、何とかなると思ったんだがなぁ」
そう苦笑する鷹丸くんの顔を、俺は真っ直ぐに見られない。彼の動きは今や、中学どころか、小学生の時代にも及ばない。
パスが出せない、ドリブルがつけない、シュートが打てない。そもそもボールが扱えない。
イップスだ。相当深刻な。
「んな顔すんじゃねぇや雅人よォ!」
決まっていた推薦が取り消されたことは風の噂で知っていたが、まさか同じ高校に入り、チームメイトになるとは思わなかった。さらにこうして親友と呼べる間柄に収まるなど、驚天動地である。
「俺を止めたのはお前の功績だし、止められたのは俺が下手だったからだ。だからよ、俺に義理立てて辞めることなんてなかったんだぜ?」
「いや、それ以前に俺じゃあとてもついていけなかったから丁度いいんだよ」
実はこれ、嘘である。
鷹丸くんに「君の退部届も出しておいてあげるよ」と言いつつ、コーチとキャプテンに「いつか彼は戻ってきますから」と二枚舌を使った。
彼の籍は未だバスケ部。
知られたときはまた背中をぶっ叩かれるだろう。
ぜひ望むところだった。
「そういや雅人、今日現国のクラスに見慣れねぇ女子がいてな」
「小さい子か? ポニーテールの」
「転校生だってよ。前の私立を一ヶ月で退学になって、転がり込んだ
大問題ならさっきから起こっているが、停学になったという話は聞かない。
その辺は緩すぎるほど緩い高校で、一体何をやらかしたのだろう。
「でよ、なんか俺の方じーっと睨んで来やがったんだけど、なんでかね」
「鷹丸くん、その子、どの席にいたの?」
「後ろだけど「それだよ。前見えなかったんだよ。気付いてやれよ」」
食い気味で突っ込んでやる。この男はたまに天然が出る。
「問題児に目ェ付けられちまったな。どうするよ雅人」
バスケ部を一ヶ月足らずで辞めて、たまに授業もサボってバイク二ケツで遊び歩いている俺たちもどうかと思うが。
「まぁ、なるようになる。気にせず行こう」
だが、なるようにはならなかったし、気にしないわけにはいかなかった。
「
廊下を、猛然と走ってくる小さな影が見えた。
「きゃあああ、どきなさいよアンタたち!!」
小さな身体に似合った甘ったるい声だが、口調が剣呑なのは、教師たちに追われているからだろう。一体なにをやらかしたのか。
「協力する?」
「別にいいだろ、めんどくせえ」
大将は今一つあの九鬼崎という女子がお気に召さないらしい。
だが、廊下のど真ん中に仁王立ちしていた鷹丸くんは企図せず関与せざるを得なかった。
「もう! どきなさいっていってんで! しょ!」
で! と、しょ! の間に、九鬼崎は華麗なスライディングを決めた。
その挙動に驚いた長身で足も長い鷹丸くんが、とっさに開いた股を、これまた華麗に通過していった。
「動かないならせめて盾になりなさいっ!
風のように走り去っていく。―――と言いたいところだが、俺にはトムからちょこまかと逃げおおせるジェリーにしか見えなかった。
「……」
しかし、親友の股を滑っていく瞬間に見えた、意外なほど整って大人びた顔に浮かぶ、心底楽しそうな表情がどうしようもなく目に焼き付いてしまった。
「あンのやろう……」
「え? なに?」
なので、
「あいつ、人の股ァ潜っていきやがった……!」
「……ああ、いったね」
バスケでもサッカーでも、股抜きは屈辱的だ。
「許さん! 追うぞ、雅人!」
俺様キャラな割に繊細なところがある日本バスケ界の至宝に「やれやれ」と表面で思いつつも、俺は
何か、とんでもないことが始まる。
そんな予感を胸に、俺は「待ちやがれェ!」と駆け出す大きな背中を、追いかける足を踏み出した。
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