第12話 「全てを終わらせるために、報復の瞬間へ」

先生が入ってきた、教室は誰一人休んでいる様子は無く、赤井もいるし、当然桜田も俺の前の席で座っている。教室に入った途端、先生は遅れて入ってきた俺の存在に気付き、「自己紹介!頼めるかしら!」と手招きをしながら田喋りかける。

もし俺が一回目の登校であれば緊張のあまり何も言えず、赤井と仲良くなるきっかけができたが、今はこっちにとってはそれだけは避けなきゃならないんだ。

俺はただ今日を生きるためだけに、この学校に足を踏み入れたのである。

ドアから歩いて教卓の後ろにへと立つ。ここからはよく生徒の姿が見えた、さっき俺の事を最低だの、何あいつ、と悪口をいいやがった女子の姿もそこには見える。


「沢良木です、よろしく」


俺はそう一言言い放ち、席に戻る。あまりにもあっさりとした自己紹介だったため全員戸惑った顔をしていた、先生も先生で顔が引きつっている。


「え、えと!沢良木くんよ!皆仲良くしてあげてね!」


教室からは小さい拍手の音だったが、大勢で手を叩いているのを一瞥する事ができた。


「じゃあまあ、そんな感じで!読書してくださいね!」


先生はそう言い放つと、そそくさと教室を出て行く。

全員が本を取り出す中、俺は机に何も出さずぼーっとしていた。

横の女子はそれを不思議そうにみつめ、今にでも話しかけそうにこちらをじーっと見ている。俺が窓がわに視線を移すと、少し前のめり気味に傾いた彼女の体は元の姿勢へと戻り、彼女は読書を再開し始めた。俺はしばらくの間誰とも仲良くする気はないし、話す気もない。俺が楽しそうにしている姿を見られると彼女の天敵になる確率が高まるからだ。

桜田は俺よりも少し背が低い、今気付いたことなのだが。そのため、彼女が取り出した本もはっきりと見ることができた。


『人間失格』


まさに彼女を表すにうってつけのタイトルで、少し笑いそうになったが、意外と文学的なのだなと関心させられた。俺は今日一日、授業を聞く気は一切ない、読書もする気はない、机に寮腕を伸ばして畳み、目を腕で隠すようにくっつけ、眠りにつくことにする。


あれからお昼ご飯の時間になった。テスト返却の時間はほぼすることがなく眠っていたので、お昼になると突然目を覚まし、伸びをする俺を不思議そうにほとんどの女子が見ていた。恐らく不良かなんかと勘違いしているかもしれないが、生まれつきの根暗である。

中学時代はこんな事よくあったため、慣れっこなのだ。

ただ昼だけはよく食べたかった、そしてここには食堂がある、まだ食堂には行っていなかった。俺は食堂へ向かう事にする、選ぶメニューはもう決まっている。

食堂で一番高いカツ丼、ラーメン定職、値段は千五百円で、とても普通の学生じゃあ手に出せない値段である。同じ日を何度も過ごす俺にとっては、値段もカロリーも気にする事なく二色をぱくりと食べ尽くすことができた。


あっという間に六眼目は来た。今日一日を振り返ると自己紹介と食堂に行ったことしか記憶に無い、ていうかそれ以外の事は何もしていない。先生も呆れているのか、名前を知らなかったせいかは知らないが、誰一人注意してこないため、ぐっすり眠りにつくことができた。一日中寝ていたため頭がぼーっとする、何のために学校に来たのかもあやふやな感じで思い出せない状態だ。とりあえず色々ありすぎた、リラックスしている今が一番良い時なのかもしれない。先生が入り、終礼が始まった。いつも通りの言葉にいつも通りの仕草を俺はただじーっと見ていた、とにかく早く帰りたい。

「それじゃあさようなら!」

先生がそう言い放つと放課後になる。

寝ぼけているのか頭がぼーっとしているが、俺は次にやるべき事を頭の中に思い起こす。

それはバッグを持ち、逃げるように走って家に帰る事だ、なぜだか分からないが急いで帰れと、寝る前の俺からの命令が通知されている。

先生が教室を出て行く中、俺は次に誰よりも早く教室を飛び出し、急いで階段を下りる。

見た感じ、まだ授業放課後が始まっていないクラスが多く、誰にもぶつかることなく閑散とした廊下を走っていく。まるで学校に爆弾でも仕掛けられているのかと言うくらい自分が焦っているのを感じた。校門をでるまで走ったところ、何故俺が駆け足で逃げ出したのかを思い出す。後ろを振り向いた、生徒一人いないから不気味だったが、俺が警戒しているのはなんといっても桜田であった。

ここで俺が後ろからつけられていたら今日までの出来事が全て無駄になる。

もうミスは許されない、これはサバイバルだ、奴と俺との。

俺は走り続けた、ただ家に帰る道を真っ直ぐ、真っ直ぐ、残念な事に家の周りは過疎地域なため、人は少ない。つまり殺されたとしても目撃者がいない状態という事になる。

だからこそ走り続けた、彼女が決して追いつけないほど全力疾走で、食べられるもんなら食べてみろ、俺はお前に食べられるだけの羊じゃない。


「見えた!」


自宅だ、後ろを振り向き誰も来ていない事を確認する。


「誰も来て…」


女だ、女が立っている。


「っ………!?」


桜田だ、そこには桜田が立っていた。

背後から彼女は俺の左側の懐へと飛び込み、彼女の左腕で首をきつく締め付けられ、そして彼女の右腕には俺が最初に殺された時に使っていた、あの奇形ナイフの刃を俺の顔元に近づけてくる。


「はっ………????」

「驚きましたよ、急に走りだすものだから…」


桜田ははぁはぁと息切らしていた、勿論俺も同様に息切れをしている。

急に走って急に止まったのだ、でも彼女が息切れしているのを見ると恐らく走って追いかけてきたのだろう。


「もし叫びでもしたらあなたの喉元を切り裂きますので、大人しくした方がいいですよ」


嘘だ、叫ばなくてもお前はそのナイフで俺を殺すつもりだろう。

彼女の巨大に膨らんだ胸は背中にぴったりと密着している、女子の胸の感触を味わえたのは初であったが、今はそんな状況ではない。もしこんな状況でなければ勿論楽しめたが。

俺は思った以上に冷静になっていた、後ろに立っていた時は心臓が止まるかと思ったが、こうなることは初めから予想していただろうか、そして何より慣れていたのかもしれない。


「では最後です、殺す前に一つだけ。あなたが死ぬ前に質問なら何でも一つだけ答えてあげます。それとも何か言い残したい言葉でもあれば言ってもらっても構いません」

出た…彼女が俺を殺す前に言ういつもの台詞だ。

「あ…ある…」

「何でしょうか」

「お前は何で俺をそこまで必死になって殺すんだよ、俺が一体何をしたっていうんだ」

「それはあなたが男だからです、質問には答えました、さようなら」


確かに質問には答えてくれた、しかし本当に一つ、彼女が答えたのは前者の方だけで、後者の方には一切触れてくれなかった。


「うあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


彼女がナイフを心臓部に振り下ろす間、俺は力一杯叫んだ。

今までに口に出した事の無いような大きい声で。

警察に捕まれ…死にやがれ…俺はそれを念じるように頭に思い浮かべていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


体からは大量の汗が流れていた、また死んだ、ベッドはぐしょぐしょに濡れている。


「いい加減にしろ…」


唐突にでてきた言葉はそれだった、頭の中も顔も体も、全てが今までに感じた事が無いくらいに熱くなっている。もはや今の俺に理性なんてものはない、桜田に対する恨み、怒り、それの二つがついに恐怖に打ち勝ち、震えさえももはや感じなくなっている。

今震えればそれは恐怖なんかじゃない、武者震いといっていいだろう、俺はあの女にまだ負けていないのだ。


「ふひひひひ…」


顔からは自然と笑みが零れていた、奴は化け物であり人間ではない、それなら俺も人間ではなく奴と同じ化け物に変わればいいだけの話だ。

俺は服を着替え一階に下りる、もはや恐怖というものは感じてすらいなかった。


「おはよ雄輝」

台所に立っている母さんが見えた、そして椅子に座りクロワッサンを食べている明日香が見える。


「おはよう」

「ああ、おはよう」


机に置いてあるリモコンを手に取り、テレビを変える。ロクな番組がやっていないな。仕方が無いので唯一マシと思えた芸能人ゴシップがやっているニュースに変える。


「こらぁ!変えるな馬鹿兄貴!」

「お前まだこんなアニメ見てるのかよ」


こんなアニメとは、セーラー服の少女が変身して戦う子供向けアニメである。再放送で絵も古い、勿論この時代には俺も生まれてはいなかったが何故か妹はそれを熱心にみていた。


「うるさい!変えるな」

「はいはい」


俺はチャンネルをその変身少女アニメにへと変える。


「ふふふ、可愛いじゃない」


母親が台所からその光景を微笑みながら見ていた。

まあ確かにあの女に比べればこのお転婆娘の方が可愛いのかもな。明日香はしばらく経つと鞄を持って家を飛び出す。俺はチャンネルをひたすら色んな番組に変えていた。


「落ち着きがないわね、どうしたの?」


母さんんがそう問いかけると、「別に…」とだけ言い、ひたすらにチャンネルを変え続ける。もはや頭ではテレビの事など全く関心が無かった、俺はただ今日一日学校で何をするかだけを考えていた。そしてまたしばらく時間が経ち、母さんがゴミを両手に持ち、外へ出ようとする。扉が開ける音が聞こえた、母さんは部屋を出て行ったのだろう。俺はその隙を見逃さず、すぐさま台所の方にへと向かう。台所までたどり着くと、俺は急いで収納されている道具を漁り、あるものを探しだす。


「よし…あった」

「何してるの?」


後ろで母さんが立っている、ゴミをもう捨てに行ったのだろう。


「何かジュース無いかと思ってさ」

「あら、ジュースなら買ってたと思うけどなかった?奥に入ってる思うんだけど」

「いや、もういいよ、そろそろ行かないと遅刻だし行ってきます」


リビングを出て廊下を歩き、扉を開けて学校へと向かう。


教室に着いたのは八時二十八分だった、赤井と桜田も含め、ほとんどの生徒が教室にいる。

そしてほとんどの女子生徒の視線は俺の方にへと向かれていた。勿論あの桜田も虚ろな目でこちらを睨みつけている。一方の俺の眼はどうなっているかはわからない、だが、意識はした。彼女が睨むその先の視線に向かって、彼女と同じ虚ろな目を作り彼女を睨み返す。

次の瞬間だった。彼女は目を逸らす、俺にびびったのだろうか。

もはや周りの視線などどうでも良かった、俺はただ自分の席だけを一点に見つめ、椅子に座る。


まもなく先生が教室に入る、知ってはいたがこちらに気付くと自己紹介を要求された。

教卓に向かい、俺は言った。


「沢良木雄輝です、短い間ですがよろしくお願いします」


そう言い放つと黙って席に戻る、教室は不穏な空気が流れていた。俺の目が怖かったのだろうか、鏡を見ていないから分からないが、今俺はどんな顔をしているんだろうか。


「え、えと!沢良木くんよ!皆仲良くしてあげてね!」


教室からは誰も拍手をしている者はいない、この前の時とは打って変わっていた。


「じゃあまあ、そんな感じで!読書してくださいね!」


先生はそう言い放つと、そそくさと教室を出て行く。

俺は机に何も出さずぼーっとしていた。

横の女子は不思議そうに俺をみつめ、今にでも話しかけそうにこちらをじーっと見ているが、視線をその見ている彼女の方に移すと、彼女は焦った仕草をし読書に取り掛かる。

数秒の間、俺は彼女をじーっと見ていた、何故だか自分でも分からない。

そして前の席では桜田が本を取り出している、『人間失格』である。

俺は笑った、心の中で喉が枯れる程大声で笑った。そして鞄をいじり、台所から持ってきた母さんがいつも使っている包丁を取り出す。

彼女の腹にそれを後ろから深く突き刺した。

反応は無い。

二度目を続けて違う箇所に刺してみる、今度も腹だ。

隣に座っている女子と、桜田の横の女子はその光景に気付くと、悲鳴をあげ始める。

俺には声が聞こえない、でも口を大きく開けて驚いた顔をしているのを見て、叫んでいるのだなーって思った。

三度目を違う箇所に刺してみる。

桜田はしばらくすると右側の方にばたりと倒れ、地面に寝転びながら固まっていた。

殺せた、のかな?


「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


声が聞こえた、いや耳が戻ったというべきだろうか。

クラス中に響く程の声をあげているのは俺と桜田の横にいた女子二人と、すぐ近くにいる他五人だ。その悲鳴を聞いたクラスにいる女子達は、こちらを見て驚いた顔をしている。あまりの異常性に急いで教室にでた女子もいた桜田みたく無表情で俺を見下すような顔をした女は誰一人としていない、いるのは俺に恐怖した女子生徒と、何が起きているのか理解できずに立ち止っている女子のみだ。そしてあの赤井までもが俺が持っているこの包丁を見て怖がっていた。


「ふふふ…」


思わず口からは笑い声が溢れ出ていた、決して意図的に出した笑いではなく自然に出た笑いだ。倒れている桜田の背中に刺さった包丁を引き抜くと、大量の血が教室の床中に流れ始める。あの日桜田に刺された時も俺の体内からはこんな風に大量の血と共に体の器官が溢れだしたのだ。これは報復だ、こうなったのは全てお前が引き起こした自業自得、因果応報の末路なのだ。

「ははははははははははははっ!」 

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