第45話 リッカの決意


「ふん、すぐに殺しておくべきでしたね。わたくしとしたことが判断を誤ったようです。……しかし、どうやって動けるようになったのかしら。まあ、いいわ。さて――」



 独り言ちるヨハンナが、その淫情に染められた両眼を禎太に向ける。



(え……? まさか)


「続きを始めるとしましょうか」


「まだする気かよっ! つーかカチュアはどこ行っちゃったのっ!? なんか遠ざかっていく音が聞こえたけどもっ!」


 

 双子に襲いかかられて、止む無くこの場を去ったのだろうか。

 或いは別の理由か……。

 どちらにしてもそれは試合再開の合図であり、ヨハンナが禎太のバットを欲してにじり寄ってくる。

 

 レザーハーネスを脱いで即コネクトかと思いきや、禎太のアレが元気度90パーセントに落ちているのを見て、もうひとしゃぶりする気らしい。



(くそっ、こうなったらもう出すかっ!? 出しちゃえばすぐにコネクトは無理だし……。でも『徳川将軍プロフィール黙読』までしたのに、今更屈服はしたくないっ!! くっそおおおお、どうしたら――)


 

 出す出さないで角突き合いを始めたそのとき――

 つい最近見たことがあるその壁はヨハンナを囲むように展開すると、その彼女を閉じ込めた。



「な、なんなのですっ これは――ッ!?」



 ヨハンナが薄青に光る壁を叩く。


 そう、思い出した。

 円筒形の光る壁であるこれは、『対物質障壁魔法マテリアバラー』。

 グレムリンに襲われそうになったとき、禎太を守ってくれたあの魔法だった。


 そのとき、「えいっ」と誰かの声が聞こえる。

 と思ったら、その誰かが崩れた穴の上から飛び降りた。

 そして足ではなく何故か尻から地面に降り立つと、「いったーぁい。えへへ、着地に失敗しちゃいました」と、その幼顔に照れ笑いを浮かべた。



「リッカっ!!」

 

「カチュアさんの代わりに助けに来ましたよ、禎太さん。まずはドービードービーの毒を中和しますね」


「良かったっ! いい加減出しっぱなしの股間を仕舞いたくてしょうがなかったぞっ」


「え? 股間って……」 


 

 リッカの視線が俺のムスコへと移動する。



「おっきい……」


「え?」


「禎太さんのすっごい大きいっ!!」



 カチュアと全く同じ反応を示すリッカ。

 すると色情に顔を赤らめる猫娘の尻尾がクネクネと動き始めて、俺の股間へと伸びてくる。

 露出している禎太のアレはさぞかし、巻き付けやすいだろう。



(よし! スキル『エロティックモザイクフィールド』発――いやいや、そうじゃないっ!!)


 

 禎太は声を上げてリッカを我に返させると、魔法によってドービードービーの毒を中和をしてもらう。

 中和が終わり慌てて立ち上がろうとする禎太だったが、拘束具によってそれは阻まれた。



「リッカっ! どこかにこの拘束具の鍵はないかっ!?」


「か、鍵ですかっ? えっと……あっ、扉の横にあるあれ――」



「待ちなさいッ!!」



 リッカが祭壇裏に通じる扉に近づこうしたとき、ヨハンナの怒号が大気を震わせる。

 ビクっと体を震わせたリッカが振り返る。



「ヨハンナ様……」


「あなた、自分が何をしているのか分かっているのですかっ? その男を自由にするなど許しませんっ! さあ、今すぐこの『対物質障壁魔法マテリアバラー』を解除しないさいっ! 早くするのですっ!!」



 オブラートに包まない、ヨハンナの感情に任せた激憤がリッカに突き刺さる。

 たじろぐような素振りを見せるリッカ。

 しかし、意を決したように言葉を返した。



「それはできません。ヨハンナ様の行いは間違っています。だから……できません」


「できない……? 召使いの分際でわたくしに牙を剥くつもりなのですかっ? それにわたくしが間違っていると? それはスチュワートを蘇らせたことを言っているのですか?」


「違います。それだって正しいとは言えないけれど、それがヨハンナ様の愛の形なのならと自分を納得させていました」


 

 禎太は思い出す。

 リッカがウゥルに、“あのことを勇者様には言っていないでしょうね――”と言われていたことを。

 それが“ゾンビとなったスチュワート”のことであるのは、もはや明瞭な事実だろう。



「では一体何が間違っているというのですっ!?」


「禎太さんは勇者です。その勇者をヨハンナ様が自分の欲望を満たすために監禁するなんて間違っています」


「勇者? ふん、それは男よ。スチュワートを愛するために快感を与えてくれるただの男。そうよ、わたくしはスチュワートを愛しているの。だからそれはここに置いておく必要があるの。この気持ち分かるでしょう」


 

 弟という言葉がでたとき、リッカの顔色が変わった。

 まるで迷いの一切を振り切ったように――。



「分かりませんっ! それにリッカはもう祷りに頼ることは止めたんですっ。祷ってたって弟は戻ってこないから……ッ。だから、だから弟をこの手でまた抱きしめるためにも、禎太さんをあなたの好きなようにはさせない――ッ!!」

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