第30話 モフモフ羊毛ボディタオル


「うっはぁぁ、極楽、極楽っ、ビバ湯浴みっ」


 

 桶風呂の湯に浸かった途端、思わず定番のやつが口から飛び出る。

 体は当然のこと、心までが柔らかな温水によって癒されて、悩みごとの全てが蒸気へと溶けていくようだ。


 何も考えずに今はひたすら湯に浸っていたい――。


 そんな、幸せを噛みしめようとしたそのときだった。

 ギイィと扉の軋む音が、後ろから聞こえたのは。



(だ、誰だ――っ)


 

 禎太は股間を慌ててタオルで隠すと、ゆっくりと振り返った。


 白いもやのような煙の中に誰かが立っている。

 シルエットからして、言うまでもないが女性だ。

 やけに頭が大きいなとギョッとしたが、それが角であることに気づいたとき、禎太はの正体を知った。



「えっ? ウゥルさんとメェイさんっ!?」


「ふふ、そうです。ウゥルと……」


「メェイです、ふふ」



 二人の艶めいた笑みを浮かべた顔が露わとなる。

 角の色が違うだけで、全く同じ顔。 

 確か黄色のほうがメェイで、水色がウゥルだったか。

 いや、逆だったか。正直どっちでもいい。


 その二人の体は、幸いにも濃い蒸気によって隠されている。

 しかし――。

 これはライトノベルの挿絵ではないとばかりに、蒸気は呆気なく霧散していった。

 閉め切られていない扉からの風が悪さをしたのだ。



(――ッ!!?)


 

 どちらも一糸まとわぬ姿だった。

 シルエットの様子から分かり切っていたことだが、こうまではっきりと視認してしまうとは思わなかった。


 ローブコートを着ていては知ることのなかった、曲線の美しい柔らかい肢体。

 その胸部には、女性らしさを強調するかのような大きな果実が二つづつぶら下がっている。

 カチュアに引けを取らない大きさの、つまりDカップはあると思われる形のよい乳房が。

 

 只、先端にある桃色の突起はカチュアのそれよりも若干大きいような気がして、強く性欲を喚起させられるは、双子のほうかもしれない。

 しかしながらバランス的にはカチュアのほうに軍配が上がって――


 ――ってことを考えている場合ではない。


 

 禎太はあわやというところで、視線を引っぺがして顔を前方へと向け直す。

 このまま視線を下ろしたら、くびれた腰の下の“未知の領域”を目撃してしまうところだった。



「え、えっと、あの、悪いんですけど、まだ入っているんでもう少し待っててもらえますか? すぐに洗って出ますんで、はは」


 

 ……反応がない。

 ただこちらに近づいているのか、ピチャンピチャンという、塗れた床を歩く音だけは聞こえてきた。

 すると視界の左隅と右隅に薄黒色の艶めかしい足が、まるで見せつけるようにゆっくりと入り込んでくる。

 

 双子は同時につま先から湯に浸かると、やがて膝立ちをして禎太を挟み込んだ。

 つまり、サンドウィッチ状態である。



「この湯浴み場は、は混浴なんですよ。だから私達が一緒に入っても問題ないんです。それと……」


「体だったら私達が、隅々まで丁寧に洗ってあげます。だって勇者様はとっても大事なお客様だから……」



 左右の耳に、甘くとろんとした、それでいてくすぐるような声。

 前方を見据えたままの禎太は、極力彼女達の顔や体を視界に入れまいとする。

 しかしながら、これが非常に危険デンジャーな事態であることは、自明の理。

 禎太はさりげなく両手を股間の上に持っていくと、タオルの上からガードした。



「お、お気持ちはありがたいんだけど、一人でゆっくり湯に浸かりたいなー。そんなに近くにいるとリラックスできないといいますか……」


「分かります。……でもリラックスという癒しは、その直前に“興奮と疲労”いうスパイスがあってこそ、より一層の効果を得ることができると思いませんか?」


 

 双子の片割れが言う。



「いやー、どうですかね。ハハ」


 

 と、そのウゥルだかメェイだかがコップからてのひらに液体をこぼす。

 リッカに渡された石鹸だ。

 それは次にメェイだかウゥルだかへと手渡されると、彼女も同じことをする。

 そして二人は手首にある、毛でできたバンドで石鹸を泡立て始めた。


 ……いや、これはバンドではない。

 

 しかもムートンでお馴染みのメリノ系種を思わせる、繊細且つ優美な。

 

 そんな贅沢な“モフモフ羊毛ボディタオル”もあってか、クリーミーに泡立った石鹸は、心身の汚垢おこうを綺麗さっぱり落としてくれそうで、不本意ながら気持ちよさも抜群だった。


 そう、禎太はその“モフモフ羊毛ボディタオル”で体を拭かれていた。

 両サイドから伸びる手が、禎太の湯に浸かっていない背中、首、胸を撫でるように。

 


「「ごぉしごし、ごぉしごし」」


「あ、いや、うわぁ、え? ちょっ、あわわ、うおっ」



 ウゥルとメェイが“モフモフ羊毛ボディタオル”で、愛撫するかのように優しく拭き続ける。

 間投詞しか出てこない禎太は、そのときちょっとした疑問を抱いていた。



 ――なぜ、腕は拭かないのだろうかと。

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