第三章 ~ちっぱい猫耳獣人リッカ・トーンポエム~

第16話 林に住まう者


 リップルの操縦を願い出たのは必然だった。

 また、あの密着からの勃起ぼっきという流れを繰り返さないために。


 そんな簡単に操縦などできはしないと断られると思ったが、カチュアは「いいよ。やってみる?」と、あっさりと了承してくれた。


 思いのほか操縦は簡単で、禎太は約20分程で基本的なことを覚えると、今度はカチュアを後ろに乗せて出発。

 四つ葉マークの老人並の安全運転だが、カチュアが言うには夕刻にはカラーラン教会堂に着くだろうとのことだった。


 ところで――。



「なあ、カチュア」


「なぁに?」


「背中にぴったりほほを付けすぎじゃないかな」


 

 伝わる感覚を信じる限り、カチュアは顔を横にして頬を禎太の背中に密着させている。

 一緒に乗り始めてからなので、かれこれ10分くらいそうしているだろうか。

 操縦の緊張から解き放たれたこともあり、禎太はようやく問い掛けたのだった。



「だって、禎太の背中すごい筋肉付いてて、なんか温かいから」


「筋肉がなくても温かいと思うけどな」


「あったかーい」


 

 禎太の答えを無視する形で、頬を温め続けるカチュア。

 うらうらとした陽気の中、頬を温める必要性はないと思ったが、どうも止めそうにもないので放っておくことにした。



 

 ◆




 いつまでも続くと思われた草原が唐突に終わりを告げる。

 牧歌的な雰囲気も同時に霧散して、次にリップルの行く手に現れたのは薄暗い林だった。


 なんとなく不穏を感じさせる林の入り口。

 その入り口を通る瞬間、禎太の背筋を冷たい汗が伝いおりる。


 しかしそれは全くの杞憂きゆうであるとばかりに、林の中は針葉樹の立ち並ぶごくごく普通の景色だった。

 薄暗いのも単に茂った葉が陽の光をさえぎっているからであり、なんてことはない。

 たまに盛り上がっている地面が目に入ってくるが、別段気に留めることもなかった。


 禎太は安堵感からホッと息を吐く。

 

 ところでカチュアがやけに静かだ。

 林に入る際に“道合ってるからそのまま行って”などと、何かしら声を掛けてくると思ったが一言もなかった。



(ん? あれ、こいつ……)



 禎太はリップルを停止させる。

 そして耳をすませば、予想通りカチュアのが聞こえてくるのだった。

 ――と思ったら、



「えへ、えへへ……コネクト気持ちいいよぉ。そんなに大きいと私の壊れちゃうよぉ、禎太ぁ。ムミャムミャ」


「寝言でもコネクトかよ。しかもしちゃってるし……」



 禎太は呆れたように独り言ちると、上半身を勢いよく前に倒した。

 


「ふぇっ!?」とカチュアが目覚める。

 そのタイミングでゆっくりと上半身を元の位置に戻す。



「起きたかよ? よくもまあ、こんなに揺られてぐっすり眠れるもんだ」


「ふわあぁ。え? 何? カラーラン教会堂に着いたの」


「ちげーよ。お前を起こしただけだ。ところで一応聞くが、この林は通り道で合っているよな?」



 ところで背中が冷たい。

 カチュアの涎だろうか。それは結構な範囲に広がっていた。



「林? 林、林…………はやしぃっ!?」



 突拍子もなく叫ぶカチュアが「えっ? えっ? もしかしてこの林って……」と、周囲にせわしなく視線を送る。



「なんだよ、どうしたん――」


「ここ、グレムリンの住処すみかじゃんっ! うっそ、なんでこんなところに来ちゃったのよぉっ!!」


「なんでって……何? 違うの? 見せてもらった地図通り真っすぐ来ただけだぞ」


「真っすぐ来ちゃダメじゃんっ」カチュアが取り出した地図の一部に指先を向ける。「この林は迂回していくのよ。ほら、ここに書いてあるでしょ。迂回って」


「いや、読めるかよ。今日来たばかりでこっちの世界の字なんかさ」


「じゃあ、なんで会話は普通にできるのよ?」


「そこはそういうもんなんだよ―—って、そんな話してていいのか? グレムリンの住処がどうかとか言ってけど……ところでグレムリンって何だ?」



 禎太は、ふとハリウッド映画の『グレムリン』を脳裏に思い浮かべる。

 耳がやたらとでかい、ぽっちゃり系のチワワみたいな奴が凶悪な姿に変貌へんぼうしたのが確かグレムリンだったはずだ。


 そのとき――。

 禎太の視界の隅で何かがうごめく。

 それは禎太が何度か見かけた盛り上がった地面。

 しかしながら蠢いたのはその地面ではなく、その下にいる何者か。


 その何者かは、赤い双眸そうぼうらしきものを禍々まがまがしく光らせると、やがて地上へと姿を現した。



「あれがグレムリン。小柄だけど凶暴なモンスターよ。禎太っ! リップルを走らせてッ!!」


「……マジかよ」


 

 爬虫類を思わせる皮膚と鋭い爪を持つ、身長1メートルほどのグレムリン。

 そいつは、まさかの


「ギャギャアアアアア」とう叫び声をあげたのち、そのグレムリンはこちらに向かって走り詰めてきた。

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