第12話 性の情動値


 禎太は今、カチュアに背中を向けて砂浜に絵を描いている。

 服を着るカチュアに、「みじめだから見ないで」と言われてそうしていたのだ。



「もういいよ。こっち見ても」


「ん? ああ――のわっ?」



 砂浜にカチュアのおっぱいの絵があった。

 ないとは言い切れない未練が、いつの間にか禎太の意識を乗っ取って描かせていたらしい。



「どうかしたの?」


「あー、いやなんでもないっ」


 

 禎太は手でかき消すとカチュアのほうに体の向きを変える。

 町娘ではない聖堂騎士の正装に身を包む彼女がいた。

 足を崩して禎太を見ているが、やっぱりそこには破廉恥はれんちな行いをしたという自覚が見受けられない。


 これはいよいよ聞かなくてはと、禎太はカチュアに疑問をぶつけることにする。

 しかしこんなことを女性に問いただしていいものなのだろうかと、喉元まで言葉が出かかったところでためらう。


 体はその答えを知ろうと前のめりの状態なのだが、やはり声が出ない。

 


(うぅ、何かきっかけが欲しい……ッ)


「え? 何? もしかしてやっぱりコネクトしたいとか? ……いいよ。しよっ」


 

 禎太の前のめりを都合よく勘違いしたらしい。

 これはいいきっかけだ。

 禎太は、また軽鎧けいがいを外そうとしているカチュアに今度こそ言った。



「ちょっと待てってっ。そうじゃないし、えっと、あの……そ、そうっ、そのはなんなんだよっ? カチュアってさ、もしかしてそういった行為が好きなのか?」


「別に、好き嫌いとかの問題じゃないと思うのだけど」



 ポカンとした表情のカチュアは答える。



「え? じゃあどういう理由だよ」


「そんなの、に決まってるじゃない」


「は? 神? 『性の情動値』??」


 

 カチュアには当たり前のことのようだ。

 しかし当然禎太にはチンプンカンプンな話であり、クエスチョンマークが頭上で旋回する。

 そんな禎太を見て、カチュアは納得するように手を叩いた。



「ああ、そっか。禎太の世界では神が存在しないんだね。じゃあ、しょうがないかな」



 神は地球にも存在する。

 しかし『リトルフェスタ』と地球では、神の性質に根本的な違いがあると推測して、禎太は敢えて訂正はしなかった。

 往々にしてファンタジー世界での神は、信仰の対象であると同時に“手を差し伸べてくれる”存在なのだから――。

 

 カチュアが先を続ける。



「この『リトルフェスタ』では全ての種族に、神というその種族を作り出した超越者がいるの。例えば私、ヒューメニア族には『アンビジオン』、禎太を魔王の元に連れて行こうとしたゴブリン族には『イグニウス』というように」


「ふむふむ、なるほど」



 固有名詞を出されてもという気持ちはある。

 が、多分ギリシア神話に登場する人型の神々のようなものなのだろう。

 あるいは幻獣系か。

 どちらかであるには違いないはずだ。



「その神々は、普段は天から“我が仔”を見守るだけの存在なのだけど、ある一つの事案においてだけ、“我が仔”にじかに干渉してくるの。――『性の情動値』を上げるという行為が干渉なのだけど、ではその一つの事案とは何でしょう?」


 

 質問をしてくるカチュア。

 禎太はおそらくこれが答えだろうと述べてみる。



かな? じゃなきゃ干渉してまで性欲を上げてやろうなんて思わないだろうし」


「そう、“我が仔”が減ることにって種の繁栄及び保存に危機感を覚えると、神は性の情動に干渉してその数値を上げるの」


「まぁ、理にかなってはいるな」


「しかも現在は、『メンズロスト』によって男が全くいなくなっちゃって仔も激減しているだろうからもう大変。全種族の神が、全ての“我が仔”の『性の情動値』を最大まで上げているはずよ。――だから私は禎太とコネクトしたいの」


 

 今度はカチュアが前のめりで禎太に顔を寄せる。

 さきほどディープなキスをした唇が、いやに官能的だ。

 禎太は上体を後ろに引くと、言葉のキャッチボールを続ける。



「そ、そこに自分の意思はないのかよ。干渉されたからといって、誰彼かまわず私とコネクトしてってなるのか?」


「そんなわけないじゃない。操り人形じゃあるまいし。そもそも今は男は禎太しかいないし、それに……」


「それに……?」


 

 色欲皆無で純粋な照れの姿を見せるカチュア。

 断然、こっちのほうがいいと思う禎太だった。



「禎太って、その……逞しくて見た目も悪くないし……けっこう私のタイプだし……」


「あ、ありがとう」



 禎太は気恥ずかしさを覚えながら礼を口にする。

 そういえば女子にそんなこと一度も言われたためしなかったかなぁ、と17年の人生を振り返ったとき、カチュアが叫んだ。



「だ、だからもう一度言うねっ!」


「な、何を?」


 

 と聞くまでもないと思ったのは、すでに聞いたあとだった。



「ねっ? お願いだから私とコネクトしよっ?」


 

 瞳を色欲で染め上げたカチュアが、可愛いらしさを前面に押し出して言ってくる。

 当然、禎太は断った。

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