第6話 聖堂騎士現る

 

 快感から身をよじるデミトロ。

 禎太が再び彼女の突起から口を離したとき、そのデミトロが禎太の口に指を当ててなぞるように動かす。



 「ハア、ハア……あんたの口、欲張りでいやらしいねぇ。そしてセクシーだよ」


 

 生暖かい吐息が顔に当たり、禎太は思わず顔をそむけた。

 しかし横に向けた顔は、デミトロの左手ですぐさま元の位置に戻される。

 そして近づく、妖艶ようえんなゴブリン女のぽってりとした唇。

 


 「ぇ――んんッ!?」


 

 禎太の口がその口で塞がれる。

 すると矢継ぎ早に、デミトロのねじ込んできた舌が禎太の同様のものに絡みつく。

 

 人生初のキス。

 それがまさか夢前燈花ゆめまえとうかでないどころか、非人間であるゴブリンが相手になるとは夢にも思わなかった。

 いや、それを言いだしたら、初めて拝んだおっぱいがゴブリンのというのもあれだが。



「ぷはぁ……。どうだい? あたしのキスは。みなぎってきたんじゃないのかい?」



 息の荒いデミトロが聞いてくる。



「み、漲ってくるって何がだよ?」


「そんなの決まってるだろ。性欲だよ。――ところであたしのほうからもあんたにサービスしてやるよ」


「サービス?」



 この状況でのサービスなど嫌な予感しかない。

 

 デミトロの視線が下方へと向いている。

 視線を追えば、行き着くのは予想通り禎太の股間だった。



「あんたのアレを愛撫してやるよ。久しぶりだから、ちぃとばかり乱暴になっちまうかもねぇ」


「ま、待てっ! それはダメだ。止めてくれっ。俺はあんたに対しての性欲は、これっぽっちも持ち合わせちゃいないっ!」


 

 それは嘘だ。

 デミトロへの性欲はもちろんある。

 しかしその性欲は、ただ一つの想いで制御することができた。


 


 




 そう――筆おろしを彼女と決めている以上、禎太は性欲を暴発させない自信があった。



「こんないい女を前にして、ひどいこと言ってくれるじゃないかい。でもいいさ。あんたの性欲なんて関係ないからねぇ」


「……何?」


「あんたのが大きくなってコネクトできればそれでいいんだよっ!!」


 

 デミトロが禎太のズボンをずり下げようとする。

 まるで、引きちぎらんばかりの強引さでもって。



「お、おいっ、止めろってッ!!」



 そのとき――視界の左側に何か見えた。

 

 


 そう認識したとき、デミトロが転瞬のあいだに後ろに飛び退く。

 と思ったら、空いた禎太の体の上を高速の剣が通り抜けた。



「うわああっ! 何、何ぃっ!?」


 

 一難去ってまた一難かよと錯乱しかける禎太。



「もう大丈夫。安心して、勇者様」



 そんな禎太に優しく掛けられる声。

 禎太は、反射的にその声がした左方に顔を向けた。


 タイトな銀色のすね当てがまず視界に入る。

 そして視線を上げれば、そこには青を基調とした軽鎧けいがいで身を包んだ女騎士がいた。

  


(え……?)

 


 女性のりんとした表情を認めたとき、禎太は思わず息を飲んだ。

 髪の毛の色こそ違うけれど、その顔は


 彼女の腰まで伸びた亜麻色の髪が風にそよぎ、柑橘かんきつ系の香りが鼻腔びこうをくすぐる。

 そういえば夢前さんもこんないい香りがしていたような……と、記憶が鮮明な映像となって蘇ってきたところで、デミトロが口を開いた。



「男女が高め合っている最中に野暮なことするねぇ」ゴブリン頭目の目つきが鋭いものに変わる。「――誰だ、お前?」


「あなたのような魔王にくみする亜人に名乗る名前などないわ。ただ、聖王様の忠実なるほこ――聖堂騎士であるということだけは教えてあげる」


「ふぅん、聖堂騎士ね。ところでどこから入って来た? 入り口付近にはあたしの部下がいたはずだが」


 

 女騎士が「あれよ」と背後に親指を向ける。

 見るとその壁の上には採光用なのか、40センチ四方ほどの穴が開いていた。



「なるほどね。……そしてもう一つ質問だ。お前は何の用でこの『ペイニィス神殿』に来た?」


 

 構えを解いたデミトロが腕を組む。

 すると、二対のプリンスメロンがその腕の上に乗った。



「あなたと同じ理由よ」


「ふぅん。こいつとコネクトして気持ちよくなりたいってわけか」


「ちっ、ちが……」


 

 女騎士が顔を朱色に染めて禎太を見る。

 その口が小声で何か呟いたのち、彼女は視線及び声音こわねを元に戻して先を続けた。



「勇者様を王妃様の元に連れていくのよっ。あなただって魔王のところに強制連行するつもりだったんじゃないの?」


「まあね。その前にコネクトってところでお前の邪魔が入ったわけだが……さぁて、どうしてくれようか」



 デミトロが何を思ったのか口笛を吹く。 

 ところで女騎士が呟いたとき、“”と口が動いていたのは気の所為だろうか。

 しかしそれは次の出来事の前では、どうでもいい思案事へとなった。


 外で待機していたゴブリン女達が、一斉に神殿内になだれ込んできたのだ。

 どうやら口笛は部下を呼ぶためのものだったらしい。



「あら、数が多いわね。さて、どうしましょう」


 

 明らかな劣勢を前にして、物怖じしない女騎士。

 するとその女騎士は(立ち上がって、勇者様)と、禎太にだけ聞こえるようにささやいた。

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