第四十七話
中学からの友達と言っても、河合とあかりが一緒にいるようになったのは夏休み明けて少し経った後くらいからだったか。当時、河合は学校を休みがちで、そのせいあってか、あまり友達がいる様子もなく、たまに学校に来ても一人だった。
そんな時、河合に声をかけたのがあかりである。
そのおかげか河合は徐々に学校に来る日が多くなった。中学のその時は俺もあかりとはけっこう一緒にいたので、自然と俺も河合と接点を持つ事になった。例えば一緒に昼飯を食べたりだとか、時々帰ったりだとか。
でも河合はけっこう人見知りをするタイプだった。だから接点はあるものの、実のところ俺と河合はお互い、
それでまぁ、別にそのまま何もしなければよかったんだが、俺も当時は若かったというか……。河合と変に距離を詰めようとしてしまったのだ。
頻繁に話しかけようとしたりだとか、そんな感じで。
その結果、俺はある日明確に、張り上げ気味にその言葉を告げられることになった。
私、あなたの事嫌い。だから、あまり関わらないで!
――それ以来いっそう河合はよそよそしくなり、俺もまたあんな事を言われた手前何も言う事は出来ず、でもあかりとはお互い仲が良いので、ただ友達の友達として一緒にい続けた。無論、その間で俺の評価が反転した出来事なんて一つもない。
「いやぁ懐かしいねぇ。わたしゃあ、嬉しいよ」
下山し入ったのは最寄りの駅のファミレス。
俺が軽く河合の事を思い出していると、あかりはどこぞのおばさんのような物言いをする。
「う、うん。わたしも、あかりちゃんと会えるなんて思ってなかった、かな」
頬を染めながらはにかむ河合は未だ人見知りはあるようだ。その性格を象徴するように結われていた小ぶりのツインテも前と同様に変わらない。
中学の頃と記憶を照らし合わせていると、ふと向かいの河合と目が合う。
が、すぐ逸らされてしまった。やっぱりそこも相変わらずか……。だいたいさっきも俺の名前出てなかったしな。
そんな俺達の事を案じたわけではないと思うが、あかりはすぐに次の話題を振ってくれる。
「でもるみちゃんって山とか登るんだね」
「えと、元々お外で動くのは好きじゃなかったんだけど、高校になったしちょっと変わったことしようかな、って。他にも色々な山に登ったよ」
「おお~。どんな山に登ったの?」
「えと……」
しばらくあかりと河合の間で楽し気な会話が繰り広げられる。
俺はと言えばできるだけ河合を不快にさせないよう、話に耳を傾けつつもドリンクを飲んだりしながら極力喋らないようにした。
「そうだ」
思い出話やら何やらで盛り上がっていたころ、あかりが思い出したように口を開く。
「そう言えば写真撮ってたのスマホだよね? るみちゃんこれやってる?」
あかりがスマホを操作すると、緑色のメールアプリを河合に見せる。
「あ、うん」
「おっけー! じゃあ交換しよう!」
河合が頷くと、あかりはぺちぺちと素早い動作でQRコードの画面にした。流石曲がりなりにもJKと言うべきか、扱いに慣れてやがる。
「え、えと、これどうするんだっけ……」
しかし河合の方はあまり慣れていなかったかどこかたどたどしく、ピンクのウサギっぽいカバーのスマホを四苦八苦しながら操作していた。その所作はどこか小動物じみた可愛さがあり僅かに保護欲をかきたてる。
「ん? どれどれ」
あかりが机から乗り出すと、河合がおずおずとスマホ画面見せる。
今をときめくJKあかりにかかれば些細な問題だったらしく、すぐに河合の表情が晴れやかになった。
特に何を思うでもなくその光景を眺めていると、不意にあかりの顔がこちらに向く。
「ほら、コウも交換しなよ!」
「えっ……」
突然放たれたあかりの言葉に声を漏らしたのは俺よりも先に河合だった。
しかしあかりは気付かなかったらしい。
俺が断ろうとする前にほらと机に置いていた俺のスマホを取り上げるとまたしても器用に操作し始める。
「ちょ……」
「はい、これコウの!」
俺の制止など露知らず、瞬く間に俺の友達追加用のQRコードを河合に見せるあかり。
河合もまたあかりに差し出された手前断れないようで、なんとなく嫌そうながらコードを読み取る。
はいと俺の元にスマホが戻って来ると、友達の欄に、追加されたの証として色が付いた河合るみという名前が加わっていた。その名前をタップし俺も一応追加しておく。
「それじゃ今からどうする? 私もコウもここからの予定は決めて無いんだけど」
話もひと段落ついたからか、ふとあかりがそう切り出す。
「えと、わたしはそろそろ帰らないといけないから……」
河合は言うと、席を立つ。
「あーそっか。じゃあまた今度遊ぼう!」
「うん、ありがとうあかりちゃん」
言ってそのまま帰るかと思われたが、河合は何故かこの場を動こうとしない。
見てみれば、その目は何か言いたげに泳いでいた。
「どうしたの? るみちゃん」
「あ、えとその……」
あかりに聞かれ、言いづらそうに口をもごもごさせる河合。それでも意を決したか、やがて控えめながらも尋ねてくる。
「もしかしてその、二人はもう……お付き合いしてたり、するのかな」
「ゲホッ」
丁度ドリンクを飲もうとした瞬間だったからついむせた。
まぁそりゃそう見える可能性は傍から見れば十分あるよな!
「お付き合い?」
俺の動揺とはよそに、あかりはぽけーっと言葉を繰り返す。
まぁ
あかりの様子を河合も察したのか、言葉を言い換えて同じ事を聞いて来た。
「その、恋人だったりするのかなー……って」
「コイビト!?」
カタコト!? とついつい突っ込みそうになる硬さを声に纏っていた。
顔を真っ赤にしたあかりは数秒間あたふたした後、コホンと一つ咳払いする。
「……ま、まだ違う」
「ゲホッ」
心を落ち着けようと飲もうとした瞬間だったから、またむせた。
この子なんて言った!? え、なんだって? なんだってぇ!?
これもうどのなんだってか分からねぇなと自己完結していると、河合が口を開く。
「……そ、そっか。ごめんね、変な事聞いて。またね」
それだけ言い残すと、河合は足早にこの場を後にする。
今の言葉に果たして河合は何を思ったのだろうか、聞いて来て割にはなんか受け答えがほんの少し不自然な気が。まぁ、気のせいか。
ともあれ、残るのは何とも言えない空気。
どうにかそれを払しょくしようと話題は無いかと考えを巡らせると、一つ不意に思い到った事があった。
「……そう言えばあかり、お前なんで俺のスマホのロック解除できたんだ?」
「え!? な、ナンデカナー……」
え、なんで目を逸らされたのカナー?
まぁ大まか、俺が解除コード打つのとかどっかで見てたってところか。テニスやってて動体視力はいいはずだから、打った数字も把握する事が出来るだろうしな。
とりあえず帰ったら急いで検索履歴削除しておこう。
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