第19話:私はこの旅行で自分の想いを知りたいの
猛を別荘へと誘って旅行をすることに。
以前、仲のいい友人を連れていったことはあるけども、異性の相手を連れるのは当然ながら初めての事だ。
突然の誘いだったのにもかかわらず、誘いのってくれた。
一泊二日の外泊。
初めての経験なので不安も多い。
「猛クンと旅行に行くことになったのよ」
カフェに集まっていた美織と優雨に淡雪はそう告白する。
優雨は「ついに、ついに?」とどこか期待してるような目を見せた。
「優雨さんが思ってるような展開ではないから」
「違うの?」
「……違います。あと、美織。何か言いたげそうな顔をしてるけど、何?」
「いえ、この子はずいぶんと踏み込んだことをするなぁって」
「そうかしら?」
美織は「心が迷路に迷い込んでるのねぇ」と彼女の本心を見抜く。
――どうしたいのか分からない。
関係を進展させたいのか、それとも終わらせたいのか。
答えの出ない迷路に迷い込み、どうしようもできずにいる。
そんな心境の淡雪に、
「いいんじゃないの。一夜でも関係を持っちゃえば面白い事になりそう」
「笑いながら言わないで。あと、そういう事にはならないって言ってます」
「えー。ないの?」
「あの猛クンよ?」
「どの猛クンかは知らないけどさ。さすがの大和君にだって性欲くらいはあるんでしょ。一夜でも気になる女子と同じ場所で過ごして、手を出せないヘタレとでも?」
くすっと笑う美織は「そんな男の子いないよねぇ?」と優雨に目配せする。
ぐぬぬ、と彼女はどこか不愉快そうに、
「うちの修斗も中々、手を出さない奥手と言う名のヘタレですが」
「あら。最近の男子はヘタレばっかりか」
「優しいと言ってあげて」
どこかフォローするように優雨はそう呟く。
「実際、大和君ってどっち? 肉食? 草食?」
「草食系と見せかけての肉食系かしら。ああみえて意地悪な所もあるわ」
「なるほど。逃げられない状況にしてから襲うパターンね」
「……違います。猛クンはヘタレでもオオカミでもないから」
「美織は単純だなぁ。男の子は男の子なりに考えてるって事。そう簡単に手を出すオオカミばかりじゃない。大和さんだってそうなんじゃないの?」
「あー、なるほど。優雨の彼氏の修斗君とかそうだよねぇ。うんうん、一緒の部屋にいても手も出してもらえず、ぐふっ!?」
「わ、私たちのことはどーでもいいでしょ」
いつものように言い争いを始める。
優雨と美織は仲がいいのか、悪いのか。
「抱いてもいいよ、アピールが無駄になってばかりの優雨だものねぇ」
「ち、違うもんっ。私たちはまだそーいう段階じゃないだけ」
「いつそんな展開になるのかしら。あー、十年後くらい?」
「――ッ!」
「きゃんっ。な、なによ。図星だからって私に八つ当たりするなぁ」
「うるさいっ。アンタが悪いんでしょ」
「ふたりとも、喧嘩しないで。ホントに仲が良くて困るわ」
「「――違うわ!?」」
お茶を飲みながら淡雪は美織をたしなめる。
「美織も下手に煽るのはやめなさい。二人は付き合い始めたばかりなんだから」
「はいはい。話を戻すわ。で、大和君と旅行に行くんだって?」
「うん。私さ、今回の旅行で確かめたいことがあるの」
わざわざ誘って遠出をしたいのには理由がある。
ただの思い出作りだけではない。
「はたして彼は自分を襲うだけの愛情があるかって事?」
「違います。何度も話をそっちに持っていくな、美織はエロい子か」
「エロい子とは失礼な。私、別に欲求不満女子じゃありません」
「……はぁ。確かめたいのは自分の気持ちよ」
淡雪の言葉にふたりは「?」と顔を見合わせる。
「自分の気持ちも何も、淡雪さんは彼が好きなんでしょう?」
「そうだ、そうだ。今さらじゃん。恋する乙女が何を言ってるの」
「……そうね。気になる相手なのは認める」
「大好きで、ラブラブなくせに。それくらい、さっさと認めなさいよ」
確かめたいのは、自分が本当に恋人ごっこを終わらせる覚悟があるかどうか。
「私はこの旅行で自分の想いを知りたいの」
「……本物の恋人になりたいってこと?」
「それも含めて。このまま、ダラダラと関係を続けるのはよろしくない。だからこそ」
「終わるか、進めるか。それを決めたいって事か。ふーん」
どこか冷めた様子の美織は淡雪に一言だけ物申す。
「淡雪が後悔しない方を選べばいいんじゃないの?」
「……?」
「ただ、私から言わせれば、淡雪には無理じゃないかな。この旅行を経ても、それは答えが出ないままで終わる気がする」
「どうして?」
「それを分からない淡雪じゃないと思うの」
長い付き合いゆえに、美織は淡雪の性格をよく知っている。
彼女は思案して言葉を絞りだす。
「私はもう彼を他人ととして突き放せない?」
「正解。中途半端な関係を続けたくないなら、私みたいにはっきりと関係を終わらせちゃうことね。フラグクラッシャーとは私のことよ」
「胸を張って言わない。貴方の場合は、告白する男子の心を壊す方でしょ」
「でも、そうするくらいの覚悟がいるんじゃない? 本当の恋人として別れるような、強い覚悟がないと、終わらせることなんてできないでしょ」
恋人ごっこをだから、お終いと言って終わるような関係ではない。
実際の恋人同士の破局と同じような痛みを伴う。
すでにそのレベルに二人の関係はなってしまっている。
――私にその決断が下せるのか、どうか。
それができないと分かってるからこそ、美織は無理するなとばかりに、
「淡雪に決断なんてできない。なので、旅行は旅行で楽しんできなさいよ」
返す言葉もなく、淡雪は黙り込むしかなかった。
美織の言葉は正しくて。
進むことも、やめることも。
きっと彼女は、どう悩んでも自分で決めきれない――。
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