第61話:大和君には”隠し妹”疑惑があるのよ
その日、猛はまたもや、ある疑惑を抱かれていた。
教室で、クラスメイトたちがひそひそと噂話をしている。
――ああこの展開は嫌な予感しかない。
こっそりと聞き耳を立てると、とんでもない噂をされていた。
すべての始まりは、一人の女子の発言から始まる。
「……私、この前、大和君にある疑惑があるのを見ちゃったんだけど」
「なになに。また疑惑が生まれたの?」
「今度は何なの? スキャンダル系?」
「まさかの隠し子騒動とか?」
「似てるかも。実は……大和君にはもうひとり妹がいるみたいなのっ」
「な、なんだって!?」
「それはまことの話か!? 詳細を求む」
クラスの男子が騒ぎだして、猛もそちらに視線を向けた。
――もう一人の妹って……俺の妹は撫子だけですが?
突拍子もない噂に困惑する。
目撃した女子生徒からは疑惑の内容が詳細に説明される。
「いうなれば、大和君には”隠し妹”疑惑があるのよ」
「隠し妹……そんな言葉が存在するのか」
「この前、放課後にアルバイト先に行こうとしてたら、中学生くらいの女の子といちゃついていた大和君を見かけたんだけどさ」
「大和は普通に女子と遊んでるだろ。リア充は滅べ」
「知ってるか、アイツの携帯電話に登録されてる番号の話」
「あー、女の子しかないんだろ。男子がほぼないっていう」
「アイツ、男子からどれだけハブられてるんだよって気もするが」
「女子にモテ過ぎて無性に腹立つもんな」
全然関係ない話で猛がディスられていた。
――じ、事実ですけどね! 男子は友達になってくれないの。
男子たちの嫉妬絡みでお友達は非常に少ない。
SNSのグループに登録しようものなら深刻なネットいじめが発生しそうだ。
「話を戻して。中学生と、どういう風に仲良さげだったんだよ」
「これがかなり親密な雰囲気だったの。もう見てるこっちが照れくさくなるわ」
「中学生か。そこはとなく、犯罪っぽい匂いがするな」
「いかんぞ、これは金銭が絡んだ欲望の香りが……」
「マジかよ。これだから金に余裕のある坊ちゃんはやるこがえげつないんだよ」
――何もしないよ、勝手な憶測はやめれ。
はっきり言って、誤爆レベルの爆撃被害だった。
「犯罪かどうかはともかく。なんと、その女の子にお兄ちゃんって呼ばれてたんだ」
「お兄ちゃん、だと?」
「くっ、兄属性持ちが羨ましいぜ」
「人生で一度だけでもいいからお兄ちゃん(はぁと)と呼ばれたい」
「男子たちが普通にキモい」
「うるせ、男の夢だって言ってるだろ」
「あんな風に懐かれてる子が撫子ちゃん以外にもいたなんてびっくりしたなぁ」
過剰に反応する男子。
噂を炎上させまくろうとする意図が感じられる。
「……アイツ、撫子ちゃん以外にも妹がいたのか?」
「待て、その子は可愛かったか?」
「そうだ。それ次第で奴を仕留めるか決める」
「可愛い系女子だよ」
「はい、大和は処刑決定。人生、終われ。こん畜生」
「大和君もにこやかで、可愛いがっていたし。『お兄ちゃん、好き』とか言われて、イチャついてたんだ。あれって何だと思う?」
皆の視線が一斉にこちらを向くので怖い。
――お、俺を見ないで、蔑まないで。
猛自身が悪いわけでもないのに、このありさまだ。
自らの行動に悔やむところがあれば反省もしよう。
だが、今回に関しては何もないのだ。
「まさか、ここにきて隠し妹疑惑が持ち上がるとは……」
「大和猛、侮りがたし。さすがだぜ」
「どちらにしても、猛さんのシスコンっぷりは変わらずってことでしょ」
「大和猛は重度のシスコン確定っと。終わってるなぁ」
「今さらだけどな。シスコン戦艦ヤマトだぞ」
「……隠し妹疑惑か。これは気になるな」
「あの撫子ちゃん以外に妹がいるなんて初耳なんだが」
「アイツのことだ。隠し妹のひとりやふたり、いてもおかしくない」
なぜか隠し妹疑惑という意味のよく分からない疑惑を抱かれている。
ようやく猛は言い訳をしようと、
「あの、皆さん。聞きたいことがあるのなら、本人がここにいるんだから聞けばいいと思うんだ。影口よくない。ていうか、本人を前に噂しないでくれ」
「「……」」
「誰も聞いてくれない!?」
もはや、猛の信頼度が下がりすぎてることにショックを受けて心の中で泣いた。
クラス内で孤立しつつある現状を打破したい。
――相変わらず、女の子達の視線が冷たいです。
噂の元となったのは結衣だろう。
最近仲良くなって以来、お兄ちゃんと呼ばれて懐かれている。
――この前、一緒にいるところを目撃されたっぽいな。
ここはちゃんとした説明をして、疑惑を払しょくせねばならない。
「こほんっ。隠し妹なんて疑惑では決してない。あの子は……」
「猛君。言い訳はしないでいいよ。事情があるんでしょう?」
「何もないよ!? 妹は撫子ひとりです」
「でも、ふたりって容姿が似てたんだけど?」
「なぬ!? それはいわゆる親の問題か」
「あー、隠し子騒動につながるわけね」
――なにも繋がりません。点と点を繋げても線は引けません。
むしろ、親は何も関係ないので誤解されるのも悲しい。
「どちらかと言えば、撫子ちゃんよりもあの子の方が兄妹みたいだった。遠目から見たら、よく似てたもん。その辺の言い訳は?」
「男女の兄妹って普通はそんなに似ないだろう」
撫子と猛は容姿的にはあまり似てない兄妹ではある。
そこに多少の自覚はあるが、兄妹でも似てないって言うのはよくある事だ。
「大和撫子、義妹疑惑が持ち上がるか」
「ないからね!? 勝手に疑惑にしないでくれるかな」
撫子の耳に入るととんでもなく問題になりそうだ。
「実はふたりって義理の兄妹だったの?」
「そんな都合のいい展開に惑わされるんじゃない」
「忘れるな、大和は妹に欲情する正真正銘のシスコンだ」
「だ、だよね。あっさりと騙されそうになっちゃった」
「大和君、疑惑を消すために嘘をつくのはよくないよ?」
クラスの皆が猛を完全にシスコン扱いする現実に絶望しそうだ。
――誰も欲情してないし、そんな目で見ないでほしい。
そもそも、猛自身は嘘も何もついてないのに。
人間とは一度信頼を失うと、発言力も低下する。
聞く耳持たずの状況に彼は自らの境遇を嘆きながら、
「なぜ、俺がこんな目に……」
がっくりと肩を落として、しょげるのだった。
「言い訳だけはさせてくれ。噂になってる子は俺の妹じゃない」
「猛さん。言い訳は見苦しいって思うんだ」
「あれでしょ。撫子ちゃんの他にも、中学生の妹がまだいるんでしょ?」
「その子も溺愛して、シスコンなんだよね?」
「だ、だから、既成事実化するのはやめてくれぇ」
何が事実なのかよく分からなくなってくる。
「妹大好きお兄ちゃん」
「もはや、昔の猛君の面影は微塵もないのが寂しいね」
「あの頃の大和さんは素敵でした」
「すべては過去。はぁ、憧れてたのに現実って辛い」
「むしろ、憧れてた過去を消してなくしたい。最悪な思い出だわ」
「お、お願いだから俺の話を聞いてくれ~!?」
結局、誰一人、言い訳すら聞いてくれなかった。
大和猛の“隠し妹疑惑”の噂が撫子の耳に入って、怒られるのは時間の問題だった。
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