第98話 リョウちゃん、創造主にキレかける。

「えーと、ホトケ様的な?」


「この世界のすべて、つまり神仏も生み出したのはわたしなので、なんて言いますか、それ以上的な?」


「へぇ………」


どう見てもそこらへんにいる大学生か社会人数年目程度の若い男だが、それが現れた瞬間、ベアトリス愛はもちろん、あの東雲ですら驚愕と絶望の顔をしたまま硬直しているところを見ると、本当に『創造主』らしい。


「で、そのすごい人……人?…ま、創造主サマが何か御用で?」


「なにやら不穏な動きをしている獄卒がいると神界がざわざわしてましてね。神罰がくだる前に様子を見に来たわけですが、いやはや、先に来てよかった」


「神罰下りそうだったのか………」


「ええ、彼らは私同様に世の事象を変える力がありますから、獄長であっても消滅は免れなかったでしょう」


創造主がちらりと見やると、東雲は悔しそうに唇を固く結び、ベアトリス愛はおろおろしている。


「いやぁ、ちょっと数千年目を離していると、やはり古いシステムにはガタが来てしまいますね」


創造主はいつの間にか白い丸テーブルに腰掛け、優雅にティーカップを揺らしていた。


「!?」


いつの間に切り替わっていたのか────リョウの視界はすべて真っ白な世界で、東雲達の姿もない。


「どうぞ」


促されて座らせられる。


「あなたはお茶よりお酒の方がいいでしょうけど」


湯気が立つ紅茶を差し出され、無言でひと舐めした瞬間リョウの全身に今まで感じたことがない衝撃が走った。


美味い。いや、そんな陳腐な言葉では表現できない。


ひと舐めしただけで全身から快楽物質が迸り、泥酔時や性行為時に得られるような悦楽などヘソのゴマでしかないほどの、コンマ数秒で廃人になってしまいそうな愉悦に骨まで溶けそうになった。


「な、な、なんじゃこりゃあ!! めっちゃ美味い!!」


「創造主ですから、甘露もポンポン作れます」


青年はにこりと笑みを浮かべると「さて、本題ですが」と切り出した。


「あなたが仰っていたとおり、六道輪廻のシステムは今や崩壊の危機です。魂が地獄に留まりすぎて修羅界、餓鬼界、畜生界は常に住民不足。天界は極一部の頭の固い神仏と天人によって恒久支配。地獄はその影響下で超過保護施策を押し進められてさらなる滞留を生んでいます────人間界など下手をすると地獄以上に地獄化してしまいますよね」


「お、おう」


「そろそろシステムをイノベーションする必要があるなぁとは思っていたのですが、既存のエビデンスを無にして再構築するのはちょっとめんどくさいので既存のシステムを上手い具合にバージョンアップしたいのです。そこにあなたのご高説。いやはやすべてアグリーですよ。しかもわたしは数億の世界を管理している身でして………あなたを改革メンバーにアサインして六道輪廻グランドデザインをアウトソーシングできればなと思っているんです。しかし天界とのコンセンサスが取れなくてですねぇ。創造主と言えども彼らに世界を任せるとコミットしていた以上、無視するわけにも行きませんし」


「なんか意識高い系な横文字が飛び交ってるけど、なに?」


「あなたに孤地獄をおまかせしようと思います」


「は?」


「孤地獄は辺地獄、独地獄とも呼ばれていまして、地獄の各所や人間界に孤立して散在しています。他との交流が一切無い個室の地獄です」


「え、さっぱりわからん」


「罪人ひとりひとりにカスタマイズされた個別指導地獄です。誰を、どんな罪でそこに落とし、どんな罰を与え、どうしたら許すのか。すべてあなたの裁量に委ねます」


「お、おう?」


「あなたが独地獄でやることなすこと、それの実績と結果を以て、天界の神仏たちも納得させ、最終目的である六道輪廻イノベーションをやり遂げていただきたいと思います」


「断る」


リョウは呆れたように言った。


「え」


「断る。なんで俺がそんなめんどくさい事をしなきゃならねぇんだ」


「ええー? あなたさっき地獄を変えるって言ってましたよね!? ────いいぜ。地獄革命、やろうじゃないの、って」


創造主はリョウの姿になってリョウの声を出して見せた。


自分の声というのは自分では異質に聞こえるものだが、目の前に遺伝子まで同じな自分が現れて自分の声で自分でやったのと同じ挙動をされると、気持ち悪いなんてものじゃなかった。


「それやめて。なんかキモい………」


「ちなみにあなたのセックスの仕方はこう」


「ほんとにやめろコラ」


どこからか現れた空気人形相手にカクカク腰を振る自分の姿に、リョウは本気で切れそうになった。

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