第97話 リョウちゃん、俺の地獄を考える。

「それって天を壊さないとできないことなのか」


「え?」


「地獄を地獄にすりゃいいのか? それは目的ではなくて手段だろ? お前の目的は、罪人が罪に応じた苦しみを受けること、だよな?」


「それを天から禁じられているのですよ」


「天に唾するつもりですか東雲様!」


 鬼封じの呪符を貼られて白目を剥いていたベアトリス愛が、うめきながら上体を起こす。


「私達獄卒も天に生かされた咎人とがびとなのですよ!? 勝てるはずもない相手に何をしようというのですか!」


「勝てるんだよね。阿修羅王さえいれば」


「し、しかし、王とはいえ所詮は修羅ですよ!? 神仏相手に勝ち目など……」


「ははは。彼はなぜ存在を抹消されたと思う? 彼はね、神仏殺しなんだ。前世では天界総出でなんとか彼を倒して魂を消し飛ばしたはずがしつこく輪廻転生で逃げおおせ、人として暮らしていたんですよ」


「そ、そんなことを………」


 東雲とベアトリス愛がリョウを見る。


 リョウは「うは、神殺しとか俺かっけぇwwww」と思わず吹き出してしまった。


 空気を読まないリョウの笑いに東雲とベアトリス愛が硬直すると、リョウは笑いを止めた。


「なんで俺がそんなめんどくせぇことしなきゃならないんだ────と言いたいところだけど、いいぜ。地獄革命、やろうじゃないの」


「おおお」


 東雲がにへら、ではなく歓喜の笑みを浮かべた。


「だが」


 リョウは東雲を睨んだ。


「あんたの個人的な恨みとかどうでもいい。俺が考える地獄ってのを作るってんならいいぜ」


「………念の為に聞きますが、どういった地獄ですか?」


「まず裁判が無駄。10回もやる必要なんかないだろ。人の世界と違って嘘も何もかも見抜かれるわけなんだし、弁護も必要ない。良いことと悪いことを天秤にかけて悪ければ地獄、良ければ天国。どっちでもなければまた人の世で生まれるとか………そんな感じでパパっと決めるようにしてくれ」


 東雲は慌てて手帳にメモを始めた。


 目がほのかに光っているだけに、その真面目な行動に違和感があるが、目が光っていなければただのサラリーマンにしか見えないのでリョウはスルーすることにした。


「確か地獄の裁判には善悪を計る秤があるんだよな?」


「ええ。死後28日目に五官王から受ける裁判で秤をつかって生前の罪状の重さが決められます」


「それに載せて善か悪か計るだけでいいだろ。自動化で効率よく!」


「どこの地獄に落とすのか、どうやって決めるんだい」


 尋ねたのはベアトリス愛だ。


「生前の罪状が写し出される鏡ってのを閻魔大王が持ってんだろ。地獄と言えば閻魔様なんだし、どこの地獄に行くのか決めるのは、やっぱ閻魔様でいいんじゃね? ただし!」


「ただし?」


「各地獄の罪状についてはもっとシンプルに! あと、刑罰内容はもっと目的に即したものを!」


「亡者どもが苦しむのならどんな形でも賛同しますよ」


 東雲がそう言ったところでリョウは首を横に振った。


「個人的な恨みとかどうでもいいって言ったろ」


「結果が同じであればいいのです」


「ったくよぉ。おい、東雲! 地獄の目的は罪人に罰を与えることだけか!? チガウだろーーーーーー!」


 別に叫ぶ必要はなかったのだが、ちょっと前に流行したどこかのヒステリックな女代議士みたいな叫びを一回やってみたかっただけである。


「地獄は亡者に罰を与え、心の底、いや、魂の底から反省するように促すことが目的だろ! そして罪人は反省し、清い魂になって転生する。この循環がないといつか天界も人間界も魂不足になって、六道輪廻のシステムバランスが崩壊するぞ。世界はこの地獄だけ、という世界になっちまうんだ」


「東雲様、やつが何を言っているのか、まったくわからない………」


 ベアトリス愛は頭を抱えたが、東雲は「黙って聽いてみよう」と言った。


「考えるな! 感じろ! 大体、無条件で成仏するための期間が何兆年、何百兆年とかいう設定がダメだ! その間、地獄に人の魂が留まりまくっちまう。もっとスピーディーに反省を促して自発的に清い魂になってもらって転生、はい、さようなら、もう地獄に落ちるんじゃないよ────これだろ!!」


 調子に乗って熱弁を振るうリョウだったが、状況に違和感を感じて、ふと我に返る。


 目の前で東雲がメモを取り、ベアトリス愛が「イミフ」という顔をしてこちらを見ている。その横で見たこともない何者かが「なるほど、なるほど」と腕組みして深く頷いている。


「あんた、誰?」


 リョウが片眉を動かしながら尋ねると、第三者は「あぁ、ご挨拶が遅れました」と錫杖を脇に抱え、手と手を合わせて一礼した。


 パーカーにデニムジーンズにスニーカー。


 天界人のような衣をまとっているが、宙に浮いたりする派手さはない。


 むしろファッション的に衣と錫杖は邪魔以外の何物でもない。


 髪型もそこらへんにいる町のトッポイ青年という感じで、目立つものはない。


 顔も人並み。強いオーラも何もない。


「わたし、いわゆる神仏の代表、六道輪廻の管理者、一言で言えばこの世界の創造主てやつですね。いやぁ、100話より前に登場できてよかった」


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