第92話 リョウちゃん、助かる。

「愛ちゅあああああああああん!」


「ええい、寄るな鬱陶しい!」


 ゴッデスにレイプされかかっていたリョウは救世主たるベアトリス愛の藍色の足にしがみついた。


「知ってるだろうが獄卒が亡者に手を出すのはご法度なんだぞ?」


 ベアトリス愛が蔑むような視線を落とすと、そこには自分の足にしがみつくリョウがいる。


「うんうん」


「それをやらかした。そこの女亡者からあんたを救うために」


「うんうん」


「あたいは阿傍羅刹だから、ただの獄卒よりリスキーなんだよねぇ」


「うんうん」


「地廻り天女のときにも貸しが一つあったよなぁ?」


「うんうん」


「わかってるんなら、あたいに逆らうんじゃないよ」


「俺、お前に金棒ですり潰された気がするんだが」


「………気のせいだろ」


「逆らうなってのはあんまりな要求じゃないか?」


 リョウは愛の太ももから這わせるように手を上げていく。


「わ、わかった! そして脚から離れろ!」


 蹴り飛ばされてリョウは転がったが、痛みはない。


「ふん。ここに東雲がいなかったことが唯一の救いか」


 ベアトリス愛は白目を剥いているゴッデスを尻目にボソッと呟いた。


 東雲相手に「様」とつける愛に対して、リョウは目を細めた。


「なぁ、東雲ってなんなんだ?」


 床であぐらを組んだリョウは「じっくり聞きたい」という姿勢で訪ねる。いい加減東雲がなんなのか確認する必要があると踏んだのだ。


「さあな」


 ベアトリス愛は真顔で素知らぬふりをした。


 その顔には「何があっても口を割らない」という強烈な意思が透けて見えたので、リョウは追求をやめた。


 男は諦めが肝心。そうやって諦め続けてきた結果、地獄に落ちたわけだが、性格はころころ変わるものではないのだ。


 それよりもこのお化け屋敷を早く出たいとリョウは思った。綾子とかいう女が人生で抱いた恨みつらみを見せられるのは勘弁だ。


 大叫喚地獄に来て、十六小地獄を何個見たのか数える。


 吼々処、受苦無有数量処、受堅苦悩不可忍耐処、随意圧処、一切闇処、人闇煙処、如飛虫堕処、死活等処、そしてここは異々転処。優れた陰陽師で人々の信用を得ておきながら、占いで嘘をついた者が堕ちる地獄だ。


 その異々転処の中に作られたお化け屋敷の中には、大叫喚地獄の他の小地獄が内包されていた。


 お化け屋敷で見せられたのは双逼悩処、唐悕望処、迭相圧処、金剛嘴烏処。


「………合計13か。あと3つもあるのかよ」


「ここは18小地獄あるんだよ。聞いてなかったのかい」


 そうだった。


 地獄を作ったやつが数え間違えでもしたのか、あとから追加でもされたのか、ここには18もの小地獄があるのだった。


「あとは………」


 ベアトリス愛が説明する。


 火鬘処かまんしょ────祝い事の最中に法を犯して者が落ちる地獄で、本来は鉄板と鉄板の間に挟まれてこすり合わされて血と肉の泥にされる刑場だった。


 受鋒苦処じゅほうくしょ────布施すると言いながら布施をしなかった者や布施の内容にケチをつけた者が落ちるという仏様側のご都合で落ちる地獄で、亡者は熱鉄の串で舌と口を刺される刑場だったらしい。


 受無辺苦処じゅむへんくしょ────船長でありながら海賊と結託し、船に乗っている商人達の財産を奪った者が落ちるというかなり限定された人間しかこれない地獄で、熱鉄の金箸で舌を引き抜かれる刑場だった。


「本当はこれで16小地獄だけど、追加があるのさ」


 血髄食処けつずいじきしょ────王や領主が「まだ税が足りない」と嘘をついて多くの税を取り上げると落ちる地獄。


「ああ、日本の政治家全員落ちるな」


「ああ。そのとおりだ」


 落ちた政治家、いや、亡者は黒縄で縛られて木に逆さづりにされた上、ダイアモンドのくちばしを持つカラスに足を食われ、脚から流れてきた自分の血を飲むという刑場だったらしい。


 そして最後は十一炎処じゅういちえんしょ────王、領主、長者のように人から信頼される立場にありながら、情によって偏った判断を下した者が落ちる地獄………。


「は? 情をかけたら落ちるのかよ。遠山の金さんとか水戸黄門は地獄行きなのか?」


「そういうことじゃない」


 ベアトリス愛は呆れたように言いつつ、教室のドアを開けた。


「とにかく今はこの先に行くことだ」


「へいへい」


 虎柄ビキニの尻を眼前に見ながら、リョウはベアトリス愛の後ろについて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます