第91話 リョウちゃん、ゴッデスとタイマンする。

 ゴッデスは顔に向けられた釘バットを軽く手で避け、リョウを睨みつけた。


「なんだい、あんた。亡者がここに何の用だい」


 そして腰のベルトに挿していたマチェーテと呼ばれるジャングルナイフを手に持つ。


 もちろんマチェーテは看守が持つようなものではない、実戦的な殺人道具だ。


 本来は農林業で用いられる刃物で、熱帯雨林で藪をこれで払いながら進んだり、サトウキビやヤシなどの収穫に用いる道具として使われる。


 だが、マチェーテの刀身は通常の刃物より粘り強くなるように焼戻しの熱処理が強めに施され、ナイフなどに比べて刀身が柔らかく、折れにくい。殺傷能力はかなり高い代物だ。


 リョウはこれまで一方的にしか喧嘩していない。これは初めての反撃にあいそうだ、と少し身を引いた。


 周りを見ると、誰もいない。綾子ですら消えていた。


 あるのは学校の教室のようなだだっ広い空間と、ゴッデスの巨体だけだ。


 ご丁寧に窓には格子が入り、密室バトル用に教室が改装されている節もある。


「なにこのバトル漫画的な展開は!?」


「フン。てめぇ、あたしとろうってのかい」


 ゴッデスの鼻息が荒く、マチェーテの縁を長い舌でぺろりと舐め始めた。


「その前に………綾子に喘息の薬を渡さなかったのはなぜだ」


「あ? 鑑別所に入れられるような糞ガキのド悪党には慈悲なんかねぇってことを教えるためさ」


 少年鑑別所は、家庭裁判所の少年審判を開くために、犯罪を犯した未成年の処分を決めるための材料を集めたり調べたりする施設のことだ。具体的には、事件を起こしてしまった動機や、医学・心理学・社会学・教育学・人間科学などの専門知識の観点から観察し、その未成年者を調査する。それが鑑別所である。


 ついでに言うと少年院は鑑別所の収容などを経て、少年審判で矯正教育が必要と判断された少年を収容する「矯正施設」だ。


 未成年は「刑務に服す」というより「矯正する」という目的で収監される。そこで正当な理由があるのに薬を与えないというは「ありえないこと」なのだ。


 リョウはその知識を大学時代に読みふけっていたヤンキー漫画で得ている。伊達に大学デビューはしていないのだ。


「てめぇもクソの部類か」


 リョウは釘バットを構えた。


 今までリョウは亡者に対して一方的に責めていたが、亡者同士で戦った時どうなるのか………死んでも死んでも蘇って、永劫に戦い続けるのか。


 だとしたら、それは地獄界ではなく修羅界ではないのか。


 ううむ? とリョウが唸りだしたのでゴッデスは眉を動かした。


「なにさ」


「どうやったら亡者同士の喧嘩に決着付けられるのかな、と」


「は?」


「いや、だってさ。俺たちが殺し合っても蘇るわけじゃんか。死んでも死んでも蘇るんだぜ? どうやって決着付けるんだ?」


「そりゃあんた………するまでりあうにきまってんじゃないか」


 急にゴッデスがもじもじと足を内股にしてくねくねし始めたので、リョウはゾッとした。


「先にもらうぜ!」


 ゴッデスがマチェーテ片手に飛びかかってくる。


 早い。


 早すぎて、リョウの釘バットは振る間もなくマチェーテに弾かれ、教室の床を転がっていった。


 マズイ!!


 組み伏せられたリョウが青ざめた時、ゴッデスはハアハアと上気した顔を赤らめていた。


「さぁ、あたしが先にまでりあおうぜ」


 あるぇ?


 なんか意味が違うこと言ってる?


 ゴッデスはマチェーテでリョウの亡者服を切り刻んだ。


「いやああああ! 犯される!!」


「叫ぶんじゃねぇ! 童貞でもあるまいし! 気持ちよくしてやんよ!!」


「ざけんな! てめぇみたいなだいだらぼっち相手に勃つかよ!!」


「勃たぬなら 殺してしまえ 男魔羅」


「え、ちょ、いや、待って! えええええええ!!」


 リョウは必死に抵抗を試みるが、ゴッデスの圧倒的なパワーに組み伏せられ、顔中をベロベロ舐められた。


 ゴッ


 という音がするや、ゴッデスは昇天したように白目をむいて倒れた。


「なに遊んでるんだ、あんた」


 ゴッデスよりも巨神兵なベアトリス愛は、呆れたように言った。








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作者:注


年末年始は更新が滞ります。ご容赦ください。

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