第88話 リョウちゃん、高級マンションに行く。

 総一朗と呼ばれた若紳士の熱弁に、親戚一同は顔を上げない。


「だったら好きにすればいい。厄介者を抱え込むのは御免だ」


 誰かがそう切り出すと


「しかし3000万はデカい」


「そうだ。総一朗さんがわしらに金を分ければいいんじゃないか」


「そうだそうだ。それで丸く収まる」


 などと言い出した。


「僕の仕事をみなさんは覚えていないようですね」


 総一朗の目が吊り上がっている。


「いや………それはわかってるよ。冗談だよ、冗談……」


「では、みなさん、ご納得いただけたんですね────綾子ちゃん、もう心配はいらない。僕が君をちゃんと面倒みるからね」


 総一朗は膝を抱える綾子の頭にそっと手を置いた。


 その時、綾子の表情に少し陰が差したように見えたリョウだったが、場面が斎場から、どこかのドラマに出てきそうな高そうなマンションの一室に切り替わってしまったので、その事自体を忘れてしまった。


 3メートル近い大きな一枚ガラスの外は一面が空。


 眼下に見下ろすのは都会の町並み。


 遠くに沈む夕日が朱色に世界を照らし、高級ソファを背もたれにしてフローリングに座り込んでいる綾子の顔も照らしていた。


「学校は慣れたかな?」


 総一朗はネクタイを緩めながら尋ねる。


「……はい」


 綾子はまだどこか慣れない風に応じた。


「ここでの暮らしが不便だったら言って欲しい。僕にできることはなんでも叶えるからね。それと、佳子さんの生命保険金、ちゃんと振り込まれているから。これが君の通帳ね」


 総一朗は銀行口座の通知を綾子にそっと差し出した。


「金額を確認したら僕に戻してね。もちろん僕は使わないけど中学生にこれは大金だ。君が成人するまで預かっておくよ。あぁ、もちろん衣食住の生活費は心配いらない。君を引き取ると決めた時から、このお金には手を付けず、僕の扶養としてちゃんと面倒見るつもりでいたから。おっと、中学生なら毎月のお小遣いも必要かな。みんなどれくらいもらっているんだろうね? 希望はあるかい?」


「あ、あの………」


 綾子は通帳を総一朗に返しながらおずおずと訪ねた。


「そんなに良くしてもらって………私………どうして?」


「佳子さんから君のことを頼まれていたからね。当然のことさ」


「あり……が……とう」


「うんうん」


 総一朗は綾子の頭をポンポンと叩いた。


 その手の感覚に、また綾子は顔に陰を差した。


『俺は一体何を見せられてんだ………綾子の一生とか全部見せられるんじゃないだろうな』


 リョウは辟易していたが、それでも内心は「不幸な少女が救われてよかった、よかった」と安堵しているところもあった。


 だが。


「ほんとに綾子ちゃんは佳子さんに似ているよ。僕の大好きだった佳子さんに」


 総一朗は緩めたネクタイを両手でピンと張ると、夕日を背にしているせいで、漆黒の悪魔のような影を綾子に伸ばした。








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作者:注

毎日12時更新に戻します。


年末年始に更新が滞ることがありますのが、

ガキ使なり紅白なりを見て、

ひとときは地獄のことをお忘れいただければ幸いです。

私もネタを貯めておきますので!





(見透かしの珠)

俺はな! 今年はハワイアンズリゾートに行って、冬場なのに水着姿の女の子たちのあんなとこやこんなとこを見ながら、ウヘヘフヒヒってやるんだ! 年末年始くらい地獄じゃなくて天国行って来てもバチは当たらねぇぜ! ヒャッハー!!

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