第82話 リョウちゃん、合コンを見る。

 如飛虫堕処にょひちゅうだしょ


 人々から得た物品を高額で販売したくせに「儲けがなかった」と嘘をついて自分だけ大儲けした者が落ちるという地獄だ。


 そこに堕ちた亡者は獄卒が斧で切り裂き、秤で計って、群がる犬達に食わせるという刑に処された。もちろん、昔、だが。


「なぁ、なんで一旦秤で計ったわけ?」


「食べさせすぎると犬の健康に悪いから?」


 東雲は通りの茶店で緑茶をすすりながら言った。


「この前にあった人闇煙処じんあんえんしょ? あすこは実際は財産があるのにないって嘘をついて人より多く物を貰ったやつが堕ちるんだよな?」


「そうです」


 東雲はみたらし団子を頬張った。


「こことあんまし変わんなくね? 嘘ついて儲け出したやつが落ちるって意味で」


「ほうれふれ(そうですね)」


「それとさ、ここの地獄なんて名前だって? 如飛虫堕処にょひちゅうだしょ? 虫が飛ぶが如く堕ちる所って意味?」


「ごくん…………はい、そうだと思います」


「意味不明だと思わないのかあんたら獄卒は」


「意味など考えていたら鬱になりますからねぇ。深く考えたことなどありません。例えるなら【箱入り娘(非処女)】みたいな矛盾にいちいち構っていられないのですよ」


「どういうことだよ、その箱入り娘。誰と何してそうなったんだよ! めっちゃ気になるだろうが!」


「それはそうと、この地獄、今では合コン会場なんですよ」


「は?」


「見てください。幹事が合コン参加者から参加費を徴収していますよ」


「あいつ………鎚之中つちのなか潜太郎せんたろうじゃないか?」






「はい、男子5000円、女子1000円ねー」


「ちょっと待てよ。男子高すぎじゃね!?」


「は、そんな小さいこと言うの? 女子のほうが稼ぎ少ないんだから、こういうときにこそ男子が多く払うべきだろ。気を利かせろよ」


「お、おう………」


『本当は男子3000円の払いだけで勘定全部支払えちゃうから、残りは俺の丸儲けなんだけどな♡』






「ほほう。こういうやつが堕ちる地獄か。なるほど」


 見透かしの珠を掲げて鎚之中つちのなか潜太郎せんたろうの心境を覗き見たリョウは、コキコキと肩の関節を鳴らした。


「え」


 振り返った鎚之中つちのなか潜太郎せんたろうの顔色がサッと青くなる。


「こいつ、どんだけ死んだら真っ当になるんだろうな」


 リョウは釘がいっぱい刺さったバットを思い切り鎚之中つちのなか潜太郎せんたろうの顔面めがけて振り抜いた。







「見事なお手前で」


 東雲は感心した。


 亡者を生かさず殺さず、痛みに苦しんで苦しんで苦しみ抜くくらいの程度で放置するリョウの拷問っぷりに対しての賛辞だ。


 釘バットで殴られ続けた鎚之中つちのなか潜太郎せんたろうは、まだ生きている。


 だが、その顔面は肉が裂け、眼球は引きずり出され、元の顔が想像出来ないほどだ。


「次の地獄ですが、死活等処しかつとうしょという所になります。そこは僧でもないのに僧の格好をして人をだまし、強盗を働いた者が堕ちる所です」


「今時坊さんの格好して強盗とか目立ちすぎだろ」


「そうですねぇ。で、そこに堕ちるとブービートラップ地獄の刑に処されていたようです」


「ん? 今までと説明のパターン変えてきたな? なんだそのブービートラップ地獄って」


 東雲はと咳払いして説明を始めた。


 獄卒に苦しめられた偽坊主の亡者たちの前に、ランダムで青蓮華の林が現れる。なんか天界に行けそうな、目映く輝く蓮華座なんかもあったりする。「この林に逃げ込めば獄卒から解放される……に違いない!」と亡者なら誰でも考えつく、そんな林だ。


 しかし、そこの林に入るや否や、四方八方から炎が吹き上がり、どこからともなく飛来する帯で目や両手足の自由を奪われ、そのまま無抵抗でこんがり焼けました状態になるのだという。


 なので、ここの獄卒は亡者を痛い目に遭わせて、林に逃げ込みたくなるように促し、林に逃げ込んだら火を付け、匠の技で帯を投げて目と両手足を縛る………かなり獄卒としての技量が問われる地獄だった。


 虎柄ビキニのベアトリス愛が東雲とリョウを待ち構えていた。


「おせぇよ。どこで道草食ってんだ、おい」


 ベアトリス愛が睨みつけてきても東雲は「にへら」としていると、リョウは外方そっぽを向いている。


「まぁ、いい。それより大叫喚地獄が大変だ。手を貸してくれ」

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