第81話 リョウちゃん、人闇煙処に行く。

 人闇煙処じんあんえんしょ


 実際は財があるのに「ない」と嘘をつき、本当は手に入れる資格がないものを皆と一緒に分け合って手に入れた者が落ちる。


「うーん? どういうやつが来るのかよくわからんな」


 楼閣に、堕天した天女を押し込めたリョウと東雲は、青鬼のベアトリス愛とも別れを告げ、次の地獄に向かっていた。


「つまりですねぇ、例えば被災したとしましょう。配給される食事など、皆に平等に配るつもりなのに『もらってません』と嘘をついて数回もらったり、そもそも避難所に行く必要がない安全圏に住んでいるのに、わざわざ被災者の振りをして援助物資をもらいに行ったり………」


「いやいや、まさかそんなやつはいないだろ」


「いるんですよ、それが」


 東雲は溜息をついた。


「自分が豊かであるためなら苦しんでいる人たちがいても構わない。そういう人間は掃いて捨てるほどいるのです」


「もちろんそういうクソ以下の人間には重い刑罰があった(過去形)んだよな?」


「ええ。獄卒に細かく身体を裂かれ続ける刑罰です。生き返ると柔らかいうちにまた裂かれ、骨の中に虫が生じて内側から食われるという痛みも伴います」


「それが今では………なにここ」


「チーズ工場です。裂けるチーズが衆合地獄の飲み屋で人気でして」


「………労働者用の地獄ってことか。てか、そんな悪行で落ちた亡者がまともに仕事するのか?」


「亡者同士で仕事を押し付けあって甘い汁を巡って争っていますね。快適な環境に自分たちの地獄を作っているようなものです」


「足りないだろ。どんなに望んでも望んでも、手に入れる寸前で何一つ手に入らないような、まったく満たされない地獄とかないのか?」


「地獄というより餓鬼道ですな」


「そういうところのほうが相応しいだろ。てか、俺、わかっちゃった」


「ほう?」


「地獄がヌルいのは天国の命令だとしても、亡者の裁判自体がダメだ。10人も裁判官がいてそれぞれ違う基準で判断するとか、無駄だろ」


「ほほう」


「全員が同じ基準で罪の重さを量るとか、その亡者の世話になった人や恨みを持つ人の意見陳述を受けるとか、陪審員制度とか、なんかもっとあるんじゃねぇのか?」


「日本で一日に何人死ぬと思います?」


 東雲の問いにリョウは答えられなかった。


「約3000人です」


「案外少ない」


「そうでしょうか? 3000人の人生を確認して判決を出すんですよ?」


「じゃあ、閻魔様の采配で全部決める、でもいいぜ? 再審とかなし。そもそも誤審はないんだろう?」


「ないですね」


「あと、どうでもいいような罪で地獄行きとかありえない。善と悪のバランスを図る機械とかないの? 壊れてない?」


「審判の出し方も、地獄の制度も内容も、数百、いえ、数千年変わっていないのですからねぇ………この地獄という制度自体が破綻しているのかもしれません。いや、これは獄卒の口から言うものではありませんが」


「新しい地獄でも作っちまえよ」


「…………なんですと?」


「は? だから天国に左右されず、罪人に罰を与えられる新しい地獄を作れば?」


「六道に新たな道を追加しろと? それはもう神の所業ですら越えていますが」


「いや、地獄は地獄でいいんじゃね? いまのこの八大地獄?とか八寒地獄?じゃない新しい地獄だ」


「ほほう………しかしそれぞれの地獄や小地獄は、異なる世界パラレルワールドが連なっていると思ってください。そんな『世界創造』ができるのも神の御業だけですよ」


「じゃ、神だか仏だかに頼んで「おニューの地獄作るから世界作って♡」って作ってもらえばいいじゃねぇか。なんかイライラするなぁ。ちったぁ自分で考えつかねぇのかよ………」


「なら地獄巡りが終わったら頼みに行ってみますか」


 東雲が不敵な笑みを浮かべた。


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