第80話 リョウちゃん、女郎を見る。

 一切闇処いっさいあんしょ


 婦女を犯した罪で捕らえられたのに嘘をついてしらを切り通し、かえって相手の婦女を犯罪者に仕立て上げた者が落ちる地獄。


 昔は頭を裂いて舌を引き出し、それを熱鉄の刀で引き裂いて殺すという苦行を永遠に続けられていた。


「頭を裂く時点で死ぬよね? その後に舌も引き裂くって、完全なオーバーキルだよね?」


 リョウが尋ねると、黒スーツの東雲は「まぁ昔のことですから」とし、虎柄ビキニのベアトリス愛は遥かな高みから「そんな小さいこと気にしてんじゃないよ小虫が」と侮蔑の言葉を落とす。


「貸イチ」


 リョウがボソっと言うと、ベアトリス愛は舌打ちしてそっぽを向く。


 その三人の後ろからトボトボと着いてくるのは、先程堕天して獄卒になったばかりの天女だ。


「亡者にならなかっただけマシ」とベアトリス愛に慰められていたが、いまの地獄では獄卒より亡者のほうが自由だから微妙な慰め方だ。


 しかも堕天したとき、天女の羽衣はすべてシースルーのエロエロスケスケモザイク必須衣装になっており、空を飛ぶ力もすべて失っていた。


 天女は一言も出さず、しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくと泣き続けている。


「うざい。この女もこいつらも!」


 リョウは、天女のエロすぎる格好に引き寄せられる「ウソツキ強姦魔の成れの果て」である亡者たちを殴り飛ばした。


「そんなエロい格好をしている方が悪い!」

「犯されるためにそんな格好をしているに違いない!」

「獄卒に人権はない! 亡者に犯されても文句は言えないはず!」


 そんな亡者どものシュプレヒコールが沸き起こる。


「どいつもこいつも自分が罪人だって自覚はあるのかね。って、それにしても随分人口多いな、この地獄」


 リョウが見渡す限り、結構な亡者がいる。


「それだけ強姦とか痴漢をしたくせに、これは冤罪だのなんだのと嘘を塗り固めて女性側に非を押し付けた男が多いのですよ」


 東雲は仕方なさそうに自分の黒ジャケットを元天女に掛けた。そうでもしないと亡者たちが襲い掛かってくるのが止まらないのだ。


「ふーん。あ、そういうことをする女もいるよな。痴漢冤罪でっち上げ。そういう奴らはどこにいるんだ?」


「受苦無有数量処ですね」


「あのガーデニングコーナーか………で、ここはどうなってんだ?」


「そんなに婦女を犯したいのなら、枯れ果てるまでどうぞという地獄です」


 一行の前に現れたのは衆合地獄でも見たような歓楽街「一切闇処通り」だった。


 一本の道沿いに軒を連ねているのは、殆どが風俗店で、古風な遊女風の店から、今時のファッションヘルス的な店、リョウも見たことがない未来的な店まで多種多様だ。


「えー、こういうの衆合地獄で見たからもういいわ」


「まぁ、そう言わずに。この元天女の勤め先を探しますので」


「え、嘘! いや! いやです! お願い! ここはいや! いやああああああああああ」


 元天女は風俗に売られそうになっていることに気がついて悲鳴を上げた。


「あーはいはい、落ち着いて。体を売れという話ではありません。一切闇処に務める獄卒にはこのあたりの店舗運営をしてもらうのです。風俗嬢は『そういう仕事が好きな』がやっていますので」


 妖怪?


 リョウはふっと顔見世している軒の下を見た。


 俯いている女郎は、リョウの視線を感じたのか、顔を上げないままですっと和服を脱ぎ落とした。


 そして後ろを向くと尻を上げるような姿で四つん這いになった。


 なんて扇情的で凄まじいアピールだろうか………股間というかケツの穴の位置に大きな一つ目がなければ。


 しかも四つん這いのまま振り返った女郎の顔には目も鼻も口もない。のっぺらぼうだ。


「あれはという妖怪です」


「まんまかよ!」


 東雲の説明に思わずリョウはツッコミを入れてしまった。


「真夜中、通行人に声をかけてアナルについた目玉を見せるだけの痴漢妖怪です。女性型の尻目は珍しいんですよ?」


「なんのためにケツ見せるんだ?」


「さぁ。妖怪のやることですから」


「こんなところで働くのイヤアアアアアアアアアアアアア!!」


 元天女は悲鳴を上げた。


 リョウは、今も尻を突き出して目玉をギロつかせている女郎を見て、少しその気分がわかった。



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