第79話 リョウちゃん、堕天させる。

『え、待って? さっきの亡者は肌も真っ黒で……』


 天女が慌てる。


「ああ、天女さんならご存知でしょうが、地獄のイメージカラーは黒なんですよ」


 岩の下敷きになっている東雲は「にへら」と笑いながら岩を軽々と持ち上げて土の中から出てきた。


 その黒いスーツには土汚れが一切残っていない。


「餓鬼道は赤、畜生道は黄色、修羅道は青色がそれぞれのイメージカラーでして、この3色を混ぜると黒くなるから、地獄道は黒なんです」


『だからなんだというのです?』


「ほら、よく赤鬼、黄鬼、青鬼ってあるでしょう? それもこの3色をモチーフにしてるようでして。確かに緑鬼とか桃鬼とかいないですからねぇ。彼女は藍色ですが修羅色の青鬼という種類でして」


 ベアトリス愛は東雲を睨みつけたが、天女の手前なので何も言わなかった。


『いい加減になさい! 何が言いたいのですかあなたは! そんなトリビアが今この場で何の意味を持つというのですか?』


「私、そもそも亡者ではなく獄卒です。黒鬼という種類でしてね」


『え………あ………バ、バカな! そこで潰されていたのは亡者だったはずです。あなたも亡者と言っていたではないですか!』


「言ったかなぁ? 黒いから見間違えたんじゃねーの? で、俺が獄卒を埋めたからなにか?」


『嘘だ! 今の今までそこで岩に潰されていたのは亡者だったはずです!!』


 天女が天女らしからぬヒステリックな声を張り上げた。


「証拠はぁ? ま、これ以上、大事おおごとにされると、見て見ぬ振りもできなくなっちゃうけど、証拠探してみますぅ?」


 リョウは煽ったが、実は証拠を探されると困る。


 東雲は亡者と瞬間移動で入れ替わっただけであり、多分、下敷きにされていた亡者はそのあたりで「え、なんか助かったんだけど」と喜んでいることだろう。


『わ、わかりました。見なかったことにしましょう』


 ────それでいいのかね


『!』


 ────誤認を認めて慈悲を乞うのではなく、見なかったことにして事なきを得るつもりかね


『そ、そのようなつもりでは!』


 ────天界に住まう者としてありえぬことをしたな


 天女は宙に浮かぶのをやめて、地面に頭をこすりつけるように平伏した。


「?」


 突然を言い始め、土下座を始めた天女の不可思議な行動に、リョウは東雲とベアトリス愛を見たが、二人とも表情は能面のようだ。


『違うのです、い、いいえ、違いません。私が………は、はい、どうか御慈悲を………御慈悲を!!』


 ここにいない誰か?に頭を下げている天女の容姿はどんどん変貌していく。


 当人はそれに気がついていないのか、必死に頭を下げているが、綺麗にまとまった髪は赤く染まり、にょっきにょっきと角も生え、着ている服は淫ら極まりないエロエロしいものに変わっていく。


「本当の地獄にようこそ」


 リョウが拍手をすると、天女はハッ!と顔を上げ、頭を触り、触り慣れぬツノの存在を確かめて絶叫した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます